24 理不尽合戦
夕方更新できるか分からないので、早めに上げます。
「セラ・ディズル。アレスフォース第三番部隊の指揮官であり、自軍を勝利に導く立場にありながら、多くの同胞を死に追いやり、部隊を壊滅させたこと、相違ないか?」
裁判官のような高圧的な口振りで、壇上の一番高いところに座った男が、淡々と告げた。
まるでセラお姉さんが、自分で手を下したかのような言い方だ。
男のすぐ隣にはルードが座り、口元をにやけさせて、セラお姉さんに視線を送っている。部屋には他にも、おそらくアレスフォースの幹部だろう男女が、セラお姉さんを囲むような形で席に着き、一段高い壇上から、中央に立ったセラお姉さんを見下ろしていた。
「………………」
セラお姉さんは何も喋らず、ただ黙って真っ直ぐ前を向いている。心なしか、最後に会ったときよりもやつれて見えた。
「…沈黙は是と見なす。相違はないか」
進行役の男の声に、セラお姉さんは何も応えることがない。
「…同意を得た。ではこれより、裁定を言い渡す。セラ・ディズル、そなたは…」と、男が言いかけたとき、
「ちょっと待ったぁー!」
バァン! と部屋の扉が開き、ライフルを肩に担いだ二人の男が、査問会の会場へと乗り込んで来た。もちろん、マーク&トニーの二人である。
セラお姉さんがそんな二人を見て、僅かに驚いたような顔を見せる。そして、その後ろにいる俺やバルート、そしてマリカの姿に気づき、なんだか戸惑ったような喜んだような微妙な顔をした。
…なんだよぅ。
「な、なんだお前達は!?」
進行役の男が席を立ち、こちらを指差して怒鳴りつける。隣に座ったルードの頰が、僅かに引き攣っているのが見えた。
「あぁん!? なんだとは随分な物言いじゃねぇか! てめぇよぅ!?」
干し肉をクッチャクッチャと噛みながら、マーク君がズカズカと部屋の中へと入って行く。トニー君がその後に続き、整った顔を悪ぅく歪ませた。
「俺らをマーク&トニーと知っての言い草かぁ!? 俺らのバックに誰がいるか分かって言ってんだろうなぁ! あぁん!?」
言って、バァン! と地の弾丸を撃ち放ち、進行役の男の背後の壁を、ドゴォン!と打ち壊した。
「な…な…!?」
突然の暴挙に、その場にいる誰もが固まって声も出せないでいる。
セラお姉さんが呆気に取られて、ポカンと口を開けてそんな光景を眺めていた。
が、やがてスッと口を閉じて、何も言うことなく事の成り行きを見守る。
その顔は、ちょっとだけ楽しそうにも見えた。
「なんなんだお前らは!? 何しに来やがった!!」と、我に返ったルードが怒鳴り声を上げた。
「なんなんだお前らは、じゃねぇんだよぉう!? なに調子に乗ってやがんだ、あぁん!?」
言い放ったマーク君がドォン!と光の弾丸を撃ち放つ。弾丸は超高速でルードの頰をかすめて、その背後にあった戸棚を粉砕した。
「な、なんなんだアレは!?」「シィルスティングじゃないぞ!?」周りの幹部達がざわつく。
武器型の魔導具なんて、この時代には存在しない。かなり未来を先取りしたものだ。幹部クラスの連中なら、これがシィルスティングじゃないことくらい一目で分かるだろうし、相当驚いているようだった。
「ごちゃごちゃくっちゃべってんじゃねぇ!」
ドォン!とトニー君が放った弾丸が、幹部らの背後の花瓶に直撃し、背後の壁ごとドゴォン!と吹き飛ばした。
背後を見て固まる幹部達。
「き、貴様ら! こんなことをしてタダで済むと…」
「タダで済まなきゃどうしてくれるってんだ!? ぁあ!?」
マーク君が再びルードに向けてドォン!とぶちかますと、ドガァン! と、ルードの前の机が弾け飛ぶ。
狙いも鮮やか。ド派手な演出。しかし、怪我をしたものは誰もいない。
しかし二人とも上手いもんだなぁ。射的に連れてったら、景品ごっそり取って来てくれそうだ。
「き、貴様らいい加減に…!」と、ルードが左手首にスッと手を伸ばす。シィルスティングを出すつもりか。
おおっと。そうはさせないよ。
「おいおい、そんなことをして…」と、マーク&トニーの前に出て、余裕の笑みでルードを睨む。続けて、
「お前の股間は、無事でいられるのか?」と、チラリとルードの股間へと視線を下ろした。
ルードがキュッと内股になり、ワナワナと拳を握りしめた。
ふふ。相当トラウマになっているようだね。いい気味だ。
「ぶ、部外者がなんの用だ! ここはお前らが来ていい場所じゃ…」
ドゥン! ドゥン!
マーク&トニーが有無を言わさずライフルを撃ち放ち、ルードの足元がドガガァン!と吹っ飛ぶ。足場を失ったルードが、壇上からゴロンと転げ落ちた。
「死ねば良かったのに…」マリカがボソッと呟く。
「何をしているのか分かっているのか!? こんな理不尽なこと、許されるとでも…」尻餅を着いた姿勢のまま、ルードが声を張り上げる。
その言葉を最後まで言わせないままに、
「それは、こっちのセリフだ」と、静かに言い放ち、キッとルードを睨みつけた。知らず知らず、全身から怒りの神力が滲み出る。
ルードが一瞬、ビクッと身を震わせた。
「おいおいぃ! なぁにビってやがんだぁ!?」
「兄貴ぃ、やっちゃいましょうぜこんなやつぅ!」
マーク&トニーが、ルードの間近でヤンキー座りをして、首をグイッと傾けるようにして半身でガンを飛ばした。ライフルを肩にトントンとさせて、「あぁーっ! 撃ちてぇなぁ!?」と今にも撃っ放しそうな勢いで、スチャッとルードに銃口を向ける。
「ひっ…!」ルードがガササっと後ろに後退した。
ちなみにここまで、バルートのおっさんは扉の前で腕組みして仁王立ちしている。いつも通りの怖い顔だ。ときおりギロリと鋭い眼光を、部屋の幹部連中に向けている。それもあってか、部屋から逃げ出せる者は誰一人いない。
「こ、これは犯罪だぞ!? 分かってやっているのか!?」
ルードが叫ぶ。若干、声が裏返っている。
ルード以外の幹部達は、進行役の男を含めて、もはや誰も言葉を発しようとしない。ルードに口裏を合わされて、セラお姉さんに責任を押し付けようとしていた連中だ。中には無理やり引き込まれた者も、いるのかも知れないが…どちらにせよ、標的がルードに集中しているうちは、黙って静観を決め込むだろう。
こっちがマスタークラスだという話は、伝わっているはずだ。
「犯罪…? S級だぞ? 俺が法律だ」
言ってルードに歩み寄り、ランファルトとディグフォルトを小サイズで召喚し、悠然と広げた両腕に止まらせる。
小サイズでも、この二体は人間サイズだ。ちなみに腕に止まっているといっても、重さはさほど感じない。
「あ、あれはまさか!?」
「白銀竜と漆黒竜!? どちらも八星クラスのシィルスティングだぞ!?」
周りの幹部達がざわついた。
ウィルが長年、主力として使っているお陰で、ランファルトとディグフォルトは、最強のシィルスティングとしてその名を轟かせている。ロード達の憧れともいえるシィルスティングだ。こちらの実力を分からせるには、これが一番手っ取り早いだろう。
それでもルードは引くつもりがないようだ。
「お、お前はまだ一般人だろう! そ、それに、セラが破門になることはすでに決定している! 今さら覆りはしないぞ!!」
さらにズサっと後ろに退いたルードが、裏返った声で叫んだ。「これは内輪の問題だ! たとえマスターロードであろうと、干渉できると思うなよ!」ビシッとこちらを指差す。
ディグフォルトが低く唸り、金色の瞳を光らせた。
「お父様…ここは私が」と、ここまで傍観気味だったマリカが不意に言葉を発し、俺の前へと歩み出る。
いや…正確にはお父様じゃないんだけどね。…まぁワンチャン、ウィルの所持しているディグフォルト─闇竜神ダグフォートと、同じ記憶を有している可能性はあるけれど。
…いや? どちらも創造神ウィラルヴァの創造物であるのだし、同じ力、理を有している以上、竜族にとっては同一の存在か? 人間とはそもそも在り方の違う一族だ。その辺りよくわからないが…今度ウィラルヴァに聞いてみるか。
「なんだ貴様は! どこのガキだ!」
「ガキ……。まぁ私への侮辱はこの際、大目に見てあげましょう。ですが…シュウ様を愚弄することは、眷族であるこの斑天竜マリカウルが許しません」
出会った当初のような厳かな口調で言い放ったマリカが、竜巻のように黒い煙を吹き上がらせ、巨大な斑天竜の姿へとその身を変貌させた。
ガラガラっと建物の天井が崩れ、バサッと広げた白黒の翼に紙切れのように吹き飛ばされる。風魔法も同時に使ったのか、建物の屋根が粉々に粉砕され、塵となって辺りに降り注いだ。
「な…な…!?」
「斑天竜マリカウルだと!?」
「マリーフィードの支配者! 伝説の竜神がなぜこんなところに!?」
驚愕の顔で口々に悲鳴を上げる幹部達。
…あ。マリカがちょっとご満悦だ。顔こそ厳かに決めているものの、ご自慢の黒いもふもふの尻尾が、嬉しそうに揺れ動いてる。
「シュウ様に仇なす者、斑天竜の天罰が下ると知れ。妾の牙は如何なる者をも噛み砕く。世界中のどこに逃げ隠れようとも、妾の翼から逃れられると思うな」
ゴゥ…!とマリカの翼の一振りで突風が巻き起こり、辛うじて残っていた建物の壁を、全て吹き飛ばしてしまった。
人をちゃんと残している辺り、マリカらしいというべきか。…残ってないと偉ぶれないもんね。ちなみに見た感じ、怪我をした者は誰もいない。完全に魔法をコントロールしている。さすがは神クラスの竜族といったところか。
「ぐ…! さ、裁定は、ギルドの総意だ…!」
あくまで譲らないルード。みっともなく尻餅を着いて、引き気味に身を仰け反らせながらも、その一点だけは姿勢を崩すことがない。
なんかもう…ここまで来ると、滑稽も通り越して哀れだね。周りの幹部達はもう、裁定なんてどうでもいいという顔をして、中にはルードに向けて小声で、これ以上逆らうなと注意している者もいる。
うーん。落としどころがない。最悪、殺さなきゃ収まりがつかないんじゃなかろうか。
とはいえ、こちらもそこまでするつもりはない。
できることなら、強引に難癖をつけて裁定を引き延ばし、ギルドのグランドマスターであるアレストが帰って来るまでの時間稼ぎをするのが、最良の道だったのだが。
…無理か。ルードが引かなきゃどうしようもない。ならば、マーク君達と示し合わせていた次の手に移ろう。マーク君達は、どっちかというとこっちの方が、都合がいいような口ぶりだったし。
「もういい…。そこまで言うなら、好きにすればいいさ」と、内心ため息を吐きながら、頑張って無表情の顔を演じた。
「破門にしたけりゃするがいい。だけどセラお姉さんは、レインティアから出ては行かないぞ。ロードとしても活動し続ける」
言って、シィルスティングをリングに戻し、セラお姉さんの側に歩み寄る。
戸惑うセラお姉さんの腕をガシッとつかみ、肩越しにルードを振り向いた。
「セラお姉さんは俺が貰う」
言って、そのままセラお姉さんを連れて、バルートのいる扉の方へと歩いて行く。セラお姉さんは心底驚いた顔で、俺の横顔を見つめていた。
「な…!?」
愕然と固まったルードに、トニー君が近づき、
「ついでに三番隊も貰いますね。言うこと聞かない連中なんていらないでしょ?」と、笑顔で言った。
おっと。三番隊のことを忘れていた。ナイスフォローだトニー君。
セラお姉さんのことしか頭になかったことに気づき、思わずカッと顔が熱くなる。
…誰にもバレちゃいないよな? さ、作戦だからね作戦。そもそも、マーク君とトニー君と話し合ったときに、ついでに三番隊も引き込んでしまおうという、目論見になっていたわけだし。
ホントだってば!
「ウフフ」と、すぐ耳元で笑い声が聞こえた。
セラお姉さんだ。
ぐぬぬ…。こんなときまで心を読むというのか。敵わないわマジで。
「じ…じゃあ、そういうことだから」
と、振り返ることもなく言い捨てて、その場を立ち去って行く。猫竜マリカがボフっと少女の姿に戻り、最後にチラッとルードを振り向き、シャーっ!と尻尾を逆立てて威嚇した。
後にはただ呆然としたルードと、アレスフォースの幹部連中、そして瓦礫の山だけが残されていた。
「こんなことして…。まぁ、理不尽に理不尽で対応することは、悪くない選択かも知れませんね」とセラお姉さんが、帰る道すがらに言った。
俺がセラお姉さんの腕を掴んでいたはずだったが、いつの間にやら逆にセラお姉さんが、俺の腕を掴んでいる。俺がセラお姉さんに連れて行かれてるような格好だ。
あれ? どうしてこうなった?
「てっきり怒られると思っていたけどな」
笑ってみせると、セラお姉さんはスッと目を細めてかぶりを振り、
「そんな余裕なかったですよ。そんなことより…」と、ふいっと視線を逸らせて、クスクスと嬉しそうに笑った。
「私…貰われちゃいました」
満面の笑顔で振り返ったセラお姉さんが、からかうようにして、俺の顔を下から覗き込んだ。




