21 開発着手
「ここが繋がっちゃマズイのか、そうなるとこっちに回り道の回路を通して…だけどこれじゃ効率が…」
ブツブツ呟きながら、テーブルの上に乗った鉱石の塊に向けて両手をかざす。
「やっぱり先に、理を組み込みやすい形に加工しないとダメか。だけど大まかな設計が把握できないと、どんな形に加工すればいいのか分からないし…錬成はどのくらい必要だろうか」
両手の指ごとに複数のシィルスティングを同時に宿し、魔導石の塊の中の状態を探る。
かなり良質の魔導石だが、所々にムラがあるのが分かった。まずはこれを滑らかに、均等に錬成し、理を組み込みやすい形へと加工しなければ、神力の流れをスムーズに行き届かせることができない。
ちなみに魔導具開発時に必要不可欠とされる、指ごとに召喚融合する技術は、身体に物理的な変化をもたらさずに能力を使用できる憑依融合の中でも、超高等技術である。これができる、できないで、魔導技師としての資質が問われる技術だ。
「どんな感じですか? 僕には何が何やらサッパリ分かりませんけど」と、後ろから覗き込んだマーク君が、おずおずと小声で尋ねた。
そんな気を使わないで大丈夫だよ。作業中に話しかけるとブチ切れる頑固職人じゃないんだから。まぁ確かに、かなり神経をすり減らす作業ではあるけど。
「とりあえず、このぐらいの魔導石が最低限のラインかな。これより質が悪いものだと、そもそも神力の錬成…つまり、魔導の理を組み込むための下地を施すのにも苦労しそうだ」
ふうと息を吐き、一先ず休憩とする。作業をするために、五つ同時に両手に憑依融合させていたシィルスティングをリングに戻し、ググッと背伸びをした。
あれからすでに三日が経っている。この三日の間に、マーク君とトニー君は早くも結果を出してくれた。
まずトニー君が、知り合いのロード達に片っ端から声を掛けて、簡易魔法の購入者を見つけ出して来てくれた。
意外なことに、高レベルの魔法よりも、低レベル魔法の方が人気で、火弾や雷撃、風刃、そして回復系などの扱いやすい魔法を中心に、あっという間に五十枚近くの買い手が付いた。それでもストックにはまだまだ余裕がある。ウィラルヴァ様様だ。
高レベルの魔法となると、ボルケーノの例のように使い所が難しい上に、チャージ料金も高額になるため、敬遠される傾向にあるみたいだ。チャージできるロードも、レインティアには数えるほどしかいないだろうしね。
もちろん、俺なら可能だ。そこにトニー君は抜かりなく目を付けて、簡易魔法チャージの件も宣伝して来たという。
この街にも、簡易魔法のチャージで小遣い稼ぎするロードや、生業とする引退した元ロードもいる。そこの仕事を奪ってしまうわけにもいかないので、その人達の主な収入源となっている低レベル魔法は、極力引き受けず、中級以上のチャージを割安で引き受ける。
そうすることで、高額であっても、御守りとして中級以上の簡易魔法を購入する者も、出て来るだろうと考えたらしい。
ト、トニー君てば、意外にデキる子!? ただ顔がいいだけじゃないのね!
そしてマーク君も早速、魔導石を少量ながらも調達して来てくれた。それだけで簡易魔法を売却した、半分近くの額が吹っ飛んでしまったけれど、まぁ必要経費だ。
知り合いの商家に口を聞き、国に渡るはずだった魔導石の一部を、横流ししてもらったらしい。…大丈夫かそれ?と思ったが、当のマーク君は、シュウさんがマスターロードになれば、国は何も言えませんと、ケロっとした表情だ。末恐ろしい子!
「神留石って、魔導石の中に、たくさん神力を溜め込めればいいんですよね。単純に神力を込めるだけじゃダメなんですか?」
「そうだね。神留石の場合、許容量を超えたものは溜め込むことができないし、無理して込めると、物理的に崩壊する。だからまずは、魔導石の許容量を引き上げて、かつ効率的に取り出せるシステムを構築しないといけない。質量も出来るだけ小型化しつつ、用途に応じて属性ごとの性質に合わせる必要もあるし、簡単ではない作業だよ。まぁ、一旦技術を確立させてしまえば、複製するのは難しくはないけどね」
マーク君が持って来てくれた三つの魔導石を見比べながら、素朴な疑問を投げかけてきたトニー君に答える。
それにしても、三つとも質がいい石だな。さすが王室御用達、といったところか。
王室にも武具カード精製の技術があるからね。魔導石もそれなりのものを準備しているのだろう。
「一番の問題は、込めた神力がダダ漏れってことなんだけどね。これをどうにかして留めれるようにしないと…」
いくつか案はあるけれど、実験的な要素が強い。最初のこの石は、捨て石にするくらいのつもりでいた方が良さそうだ。
「何か僕等にも手伝えることはありますか?」
「うーん。…ないな。まぁ、なんとかするよ」
こればっかりは、理を理解できる者じゃないと何もできない。よしんば理を理解していたとしても、それを把握、錬成、構成、加工できるシィルスティングを所持していなければ、手のつけようがないからね。
神力の属性も使い分けれなきゃいけないし。俺がやるしかない。まぁマリカなら理も理解しているだろうし、多少なりとも干渉する力は持ってるだろうけど。
ただし、マリカに許された力は、闇、光、風の三種類だけだったはずだ。それ以外は結局、俺一人でやるしかないってことだな。
「神留石もそうだけど、それを流用する魔導具の開発もしないとね。まぁこっちは、神留石ほど苦労はしないだろうけど」
目標はマシンガンか。まず最初は単発式のライフルやハンドガンから入ってもいいかも知れない。飛ばすのは鉛玉ではなく、属性ごとの神力の弾丸だ。
実弾が効果がないとは言わないけどね。それでも実弾や大砲の弾くらいなら、簡単に弾いちゃうロードなんてゴロゴロいるよ。多分バルートでもできると思う。
その点、神力の弾丸なら、弾くのにも神力を消耗させれるし、直撃した際のダメージもデカい。実弾よりも確実だ。
「弓はどれぐらいで出来そうですか?」
あくまでそこに拘るトニー君。ライフルじゃダメなのかね。試しに訊いてみると、
「なんですかそれ! めっちゃ面白そうじゃないですか!」興味を示してくれた。
まぁとにかく。魔導具の開発も地道に進めて行くこととしよう。千里の道も一歩から。逆に一気に詰め込みすぎると、パンクして停滞することになりかねない。
ロストミレニアムの創作みたいにね。まぁ、鉄は熱いうちに打てという言葉もあるが。
──茶菓子を買いに行ってもらっていたマリカと子供達が戻って来たので、皆んなでオヤツの時間にすることにした。マリカがいつもの魔法でティーセットを取り出し、ジャスミンティーをコポコポと注ぎ、一人ずつ配って回る。
「そういえば、聞きましたか? 姉御、結構やばい立場になってるらしいですよ」と、不意にトニー君が気になる話題を振ってきた。
「下手したら上級ロードの資格すら、剥奪され兼ねない流れになってるとか。ルード・グスティがあちこちに根回ししてて、一気に追い込みにかかっているそうです」
「またあいつか。どんだけ振られたことを根に持ってるんだか」呆れてため息を吐く。
男の嫉妬ってみっともないものだ。スッパリと割り切ってしまえば、自分自身だって楽になれるだろうに。
「姉御も、いっそアレスフォースに見切りをつけて、こっちに来ればいいんですけどね」
そう簡単な話でもないのだろう。セラお姉さん一人だけならまだしも、まだティアスに到着してもいない、三番隊の面々への責任もある。
そこを見捨てない辺り、セラお姉さんらしいと言うべきか。自分だけが良ければいいというわけじゃないってことだ。見習わないといけないな。
楽しければいいってもんじゃない。もちろん、楽しくないとダメだけど。…この言葉、結構重いと思う。責任ある立場なら尚更。
「子供達、難民の受け入れ先はどうなってるんだ? アレスフォースが面倒見てくれるって手筈だっただろ?」
マリカの周りに集まって、楽しそうにオヤツを頬張る子供達を眺めながら、ふと気になってトニー君を見やる。
この宿の代金は俺の分も含めて、セラお姉さんのポケットマネーから出ている。上級ロードからしたら大した出費ではないだろうが、それでもいつまでもというわけにはいかない。子供達はともかく、大人勢は早く仕事の一つも見つからないと、不安で仕方ないだろう。
「完全に宙ぶらりん状態ですね。査問で姉御やバルートも問題には出したようですが、まずは責任問題が先だと、耳を貸してはもらえなかったとか。最悪、俺達でなんとかするしかないと思いますが、それくらいなら…なぁ、マーク?」
「そうですね。そのくらいのことなら、僕とトニーだけでもなんとでもなりますよ。シュウさんは心配しないで下さい」
と、マーク君とトニー君は実に頼もしい。
なんだかんだ言って中級ロード。一端の一流ロードだ。おちゃらけているように見えて、そこらの馬の骨とは格が違うということか。
「助かるよ。だけど、もうしばらくは様子を見てみようか。現時点ではアレスフォースの責任下にあるわけだし、勝手に解決しても角が立つかも知れない」
「了解です」
「とにかく今は、魔導具の開発に力を入れて行きましょう!」
マーク君が元気にガッツポーズを作る。
うん。お気楽と言われようと、元気であることは大事だ。そんなマーク君達がこんなに楽しみにしているんだし、頑張って完成させないとな。
ティーカップを口元に運びながら、空いた片手で魔導石を一つ手に取り、マジマジと見つめる。
一度、どれくらい神力を込めれるものか試してみようか。許容量を超えたものはすぐに流れ出て霧散してしまうが、少量ながら留まるものもある。もしかしたら多めに貯蔵できる魔導石もあるかも知れない。
と、
「それって鉄の魔導石ですよねー。銀の魔導石なら、鉄よりもたくさん神力を溜めれると思いますよー」
おかわりのお茶をコポコポ注いで回っていたマリカが、気になることを言った。
「うん? 魔導石って鉄とか銀とかあるのか?」
そいつは初耳だ。そういえば魔導石についての設定は、そんなに細かくは作っていなかった。
「そうですよ。シィルスティングやロードリングも、銀の魔導石を究極錬成して完成する、ミスリルでできています。ウィル様が頑張って作っていらっしゃいました」
シィルスティングやロードリングは、神話の時代にウィルが作り出し、人に与えた平和を導くための力だ。この技術は、魔導具と呼べるものの中で、最高傑作と言っていい代物だろう。
考えれば考えるだけ、ウィル・アルヴァは途方もない存在だ。父なる神…そう呼ばれて敬われるのも納得がいく。
「確か、大地を流れる神力の渦、竜脈の流れが淀んだ箇所で採掘される、神力を含んだ鉱石、というのが魔導石だったな。
…そうか。ということは、鉄や銀だけじゃなく、様々な種類の魔導石が存在するってことになるのか。ミスリル、オリハルコン、ヒヒイロカネとかも、その分類に当たるわけだ」
そういえば、魔導機スティングアーマーの材料には、オリハルコンやアダマンといった、特殊な鉱石が使われていた。言われてみれば確かに、あれも魔導石の部類に入るものだ。
さすがは神話の時代から生きる賢竜マリカウル。色々物知りなのね。
「色んなのがあるらしいですねー。私は魔導具を作ったことがないので、あんまり詳しくないですけど」と、マリカがエヘヘと笑う。
竜族は魔導具なんか使わなくても、魔法が直で使えるもんね。実際、何もないところからティーセットとお茶を出現させるこの魔法も、人の目から見たら常識外れもいいところだ。しかもめっちゃ適温だし。
「そうなるとこの魔導石は、剣や槍のシィルスティングを製造するのに、運び込まれていたものなんだろうな。国が持ってる魔導技術は、武具カードのものだけだし」
カードそのものは、捕獲封印用にロード協会から販売されている、空のシィルスティングで代用できる。
武具カードの剣や槍なんかは、てっきり魔導石の嵌め込まれた通常の武具かと思っていたけど、そうか、武具自体も魔導石で製造されていたんだな。
しかしそうなると、一つ重大な問題が出てくることになる。
「銀の魔導石、どうやって手に入れよう」
シィルスティングの製造技術は、ロード協会本部のあるアルディニア公国、そして聖王国プレフィスが独占している。つまり、リングにも使用されている銀の魔導石は、レインティアでは入手できないということだ。
「うーん。知り合いを片っ端から当たって、情報を仕入れてみます」
「僕も、この魔導石を売ってくれた商人に、なんとかできないか聞いてきます」
と、トニー君とマーク君が部屋を飛び出そうとしたら、
「その必要はないと思いますよ。シュウ様なら作り出せると思いますから」
マリカがまたとんでもないことを言い出した。
マーク君。確実にふっかけられてますね。まぁシュウは気にしないでしょうけど。
ちなみに一つ星の平均価格が10万円から。二つ星だと30万といったところでしょうか。簡易魔法でこれなんで、召喚獣の方はもっと高いです。




