第四話
「セロムさん、来たっす!」
お馴染みの5人組が私の店に入ってきました。先程メールをいただきましたから要件は分かっています。流石に毎日素材をもらうのは悪いと思うのですが「そこは譲れない」と言われてしまいました。せめて買い取らせて欲しいです。
「買い取りは無しだぜ、セロム。これ、今回の素材な?つってもまだ始めの草原までしか基本いけないからホーンラビットとコボルトの素材が大半だけど」
先に言われてしまいました。でも森のモンスターもそこまで強くなかったはずですけどね。
「それでも私はあまりフィールドに出ないので嬉しいですよ?薬草や毒草も採って来てくれますし」
「なら良いんだけどな?後、HPポーションとMPポーション両方20個ずつ買いたいんだけど」
「はい、もちろん。それぞれ一つ500イラなので1万イラになりますよ。でも皆さん何故そんなにお金を持っているのですか?」
「私たちはベータからですから一部のイラを引き継げるんです」
どれだけベータで稼いでいたのでしょうか?5人は俗に言う攻略組の一員ですから元から相当強かったのでしょうけど。
「そういえば、【竜の王】のクラウンにこの武器のことについて聞かれたんすよ。まぁ、世間話程度だったんすけど一応言っておくっす!」
「【竜の王】?クラウン?」
「セロムさん……基本店だから……知らないかも?」
「そうですね、【竜の王】っていうのはベータ時代に最前線で戦っていたギルドだったんですよ。今はまだギルドシステムはないから元が最初に着くんだけど」
「リフ、言ってないよな?」
「もちろんっす!」
「そうですか、気をつけておきます」
ギルドですか……。私もいつかは入るのでしょうか?そろそろフィールドに出ておいたほうがいいかもしれません。
「ドラグくん、確かこのゲームを始める前に守ってくれるとおっしゃってましたよね?」
「おう?」
「たまにはフィールドで採取でもしようと思いまして護衛をお願いできますか?もちろん、正当な報酬は支払います」
「全然良いぜ!皆んなも良いよな?」
「もちろんっす!」
「はい」
「「うん」」
「報酬は別に必要ありませんよ?」
「いいえ、払わせて下さい」
「それなら……ポーション一つずつ無料で……駄目?」
「それで良いのですか?私はイラを払っても良いくらいなのですが」
というよりもともと払うつもりだったのですけど。ツムギも戦えるようになって来ているのでお披露目をしてしまおうと思います。
「良いよ!今から行くか?」
「ええ、そうですね。店は一応鍵をかけて行きましょう。先にポーションは渡しておきますね」
「嗚呼、助かる。草原で良いのか?」
「いえ、森の浅いところまで行けますか?無理ならば草原で」
「浅い所なら大丈夫っす!あれ?そのぬいぐるみも持っていくんすか?」
「私の大切な子ですからね」
久しぶりに店から出たので太陽の光が眩しく感じますね?これからは頻繁に散歩でもしましょうか。街に出てみると結構初期装備の方が多いように思われますね。もう5日近く経っていますからオーダーメイドの装備を持っている方も多いと思ったのですが。
「初期装備の方が多いのですね」
「そうっすね、プレイヤー産の装備は特効が付くんすけど今セロムさん以外は☆2が限界っすから。しかも効果もしょぼいんで。まぁ、NPC産の装備はこの街は☆2以上は売ってないんすけど」
「そもそも生産職が少ないから仕方がないのかもしれないけどな」
そんな話をしているとベルルダちゃん達が串焼きを買ってきてくださいました。プレイヤーに大人気の店らしく長めの列が出来上がっています。初めはおどおどしていたヒナタちゃんとヒカゲくんも段々と話しかけてくれるようになりました。リューくんが良いお友達を見つけられたようでお姉ちゃんは嬉しいです。
初日と同じように草原はプレイヤーで溢れかえっていました。あの森は狼の森と呼ばれているそうで、初心者がうっかり森に入ってしまって狼の群れにキルされたと情報があったそうです。攻略組は森のボス戦に近いうちに挑むつもりのようですが圧倒的に装備が追いついていないとのことです。
「俺達もボス戦に参加することになってるんだ。後で武器の耐久値確認しておいてほしいんだが」
「はい、良いですよ。あら?この実……」
「何だ、それ?」
「ドルトニスですよ。別名〝冥土の実〟とも呼ばれている有毒果実ですね」
「毒!? 何でそんなのが」
「森だからでしょうね。これ、いくつか採取したいです」
ドルトニスは10個ほど採取しました。毒のデバフをつけられる短刀を作りたいのです。私は決定的な攻撃力に欠けますから。ちなみに武器の耐久値は武器を分析すれば分かるんです。粗雑に扱うとすぐに耐久値は減りますし、大事に扱えば長く使えます。昨日、植物全集というのを生産ギルドで買ったのですがお客様が勿論来ないので暇で読み終えてしまったのです。
「後は……これなんか良いですね」
「それは?」
「ただの甘い果実ですよ?ポーションの実験に使えないかと思いまして。この実はバフ効果がありまして食べてから数十分の間HPが一定時間に少しずつ回復するんです」
「マジっすか!」
「皆さんも一つずつ持っておくと良いですよ?」
採り過ぎは良くないので5個程にしておきます。皆さん私の話を聞いて一つずつストレージにしまっています。
そんな調子で採取を続けて行くといよいよ護衛をお願いした目的が出てきました。目の前に現れたのは赤い狼の群れです。恐らくこれがさっきの話に出た狼の群れなのでしょうね。ドラグくん達はすぐにフォーメーションを私を守る形で組み始めます。私のそばにはベルルダちゃんとヒナタちゃんが遠距離攻撃をしています。ただベルルダちゃんは物理系の魔術師らしいので不満そうですね。ドラグくんとリフくんが近距離の前衛、ヒカゲくんが中距離の前衛です。
「ヒカゲ!一匹逃した、頼む!」
「……うん。【影縫い】、ヒナタ」
「分かった……、【聖矢】」
流石の連携です。長い間一緒に戦っていないと出来ない芸当でしょう。ヒナタちゃんの【聖矢】は弓術スキルのアーツの一つでしょう。戦闘職の職業スキルはいくつかのアーツが合わさったものでもあるんですよね。
「一回下がって下さい!水の精霊ウィンディーネよ、我が魔力に水の加護を与えよ!大いなる水の力で敵を貫け!」
この世界だと魔法は媒体に魔力を込めて呪文を唱えることで発動させられるようです。アーツとはまた別物だそうなので少しややこしいかもしれませんね。しかも呪文は暗記する必要があるようで私が今使えるのは火属性魔法が3個程です。呪文は本を買ったのでなんとか覚えられました。ただ、ベルルダちゃんは今のでかなりの魔力を使ったようで肩で息をしているように思われます。
「はぁ、こんな大技パーティーじゃなければ使えませんね。すみません、セロムさん。ポーションをいただけますか?」
「勿論、こちらをどうぞ」
「ありがとうございます、結構これで削れたので後は3人に任せても平気そうですね」
「そうですね」
「リフ、それで終わりだ!」
「分かったっす!【鎌鼬】」
最後の1匹の狼はリフくんの武器スキルによって倒されました。周りの木が何本か巻き添えになりましたけどね。でもツムギと私の出る幕がなかったです。せっかくお披露目しようと思ったのですが。
すると一瞬緩んだ空気が再び張り詰めます。気配のした方向をみるとひっそりとこちらを覗く黒い狼が。のっそりと私たちの方向へ歩いてきます。ベルルダちゃん曰く、あの黒い狼はこのフィールドのボスモンスターらしいです。
「皆さん、下がっていて下さい。私がやりますから」
「はぁ!?セロムは鍛治師だろ!」
「じゃあ危なくなったら助けてください」
後ろでワイワイ言っていますが気にしないで行きましょうか。さぁて、出番ですよツムギ?
「ツムギ、行きますよ!」
「はい、ご主人様!」
「【蜃気楼】!」
これでとりあえず視界は奪えましたかね。今は私達の幻影が見えているはずです。木に一心不乱に噛み付いている様子は大分滑稽ですよ。
「【雷鳥】ご主人様、デバフかけられた!」
黒狼は麻痺状態でしばらくの間は動けませんよ?それでは早めに倒してしまいましょうかね!
「ありがとうございます!【夜の蝶】これで後少しです!」
蝶の半径10メートル以内に入った敵はHPが半減するのです!後1撃で終わりに出来ます!私は大槌を取り出して構えます。
「悪い子にはお仕置きですよ?もぉ」
「グルルゥゥ!」
とりあえず目を潰してから行きましょうか。まずは右目、次にー左目!あら?もう少しお仕置きしようと思ったのですがもうなくなってしまいましたね?黒狼はポリゴンになって消えて行きました。ドロップ品も結構良い感じです!
「嘘でしょう!? 何で生産職がボスを倒せるんですか!?」
「そのうさぎ動くんすか!ヤベェっすね、セロムさん」
「この子はツムギです。可愛いでしょう?」
「姉貴!? ちゃんと説明してくれるか?」
「もちろんですよ?」
『プレイヤーによりフィールドボスが撃破されました。それにより第2の街が開放されました』
「名前が出ていなくて良かったな?で、とりあえずここから出ようぜ」
しばらくは解放してもらえなさそうですね?私はボスを撃破したので第2の街に行けるそうですが、皆さんはまだ行けないそうです。フィールドボスは何度でも蘇るそうなので沢山素材が貰えそうです!