第一話
二週間後、私とリューくんはお互いの部屋でベッドに寝転がりながらヘッドギアを体に装着しました。すでに夏休みに入っている時期での初配信ですから混み合うでしょう。早めにログイン出来るように配信五分前にはスタンバイをして後はスイッチを入れるだけです。時計の針が9を刺した時私は少しの不安と期待を胸にヘッドギアのスイッチを入れました。
スイッチを入れた瞬間、目にしたのは一面真っ白な部屋。ここがアバター作成ルームでしょうか。
「こんにちは!お姉さん、僕は案内AIのクグリだよ。お姉さんの名前を教えてくれる?」
突然声をかけてきたのは藍色の髪の端正な顔立ちをした少年。案内AIと名乗っていましたから彼がサポートをしてくれるのでしょう。
「私はセロムと言います」
「セロムさんだね?ちょっと待っててねー?」
クグリさんは手の平をを胸の前で上向きにしウィンドウを操作しました。私の名前が見つかったようで、名前とアバターI.D.を確認します。問題はなかったので早速種属決めから始めることにしました。
「セロムさんは五つの基本種族の人族、エルフ、ドワーフ、竜人、獣人から選ぶかランダムから選ぶかだね!」
「とりあえずランダムでお願いします」
ランダムの結果は1、2回目は基本種族でしたが最期に出たのは小人族という種族でした。
「わぁ!おめでとう、小人族はねとってもレア種族なんだよ!身長は人族の半分くらいしかないけど手先が器用で素早いんだよね!どっちかというと生産職向きかな?あっそうだ。職業はどうする?」
「鍛治師を希望していますね。後ほど調薬師を取れればと思っています」
「オッケー!じゃあ小人族で良いのかな?スキルは【鍛治】以外のスキルを四つ取ってね!後種族スキルの【夜の蝶】もあるから一応覚えておいて!」
「では【鑑定】【分析】【火属性魔法】【熱操作】をお願いします」
「はーい。じゃあアバター作りに入ろうか。種族柄、身長は確定しちゃってるからそれ以外のところでね?」
私は元から決めていた黒髪に金色の瞳という猫のような形にしました。髪の長さもミディアムからロングにすると結構面影がなくなってきます。
「それで良い?じゃあステ振りをしてくれる?ステータスポイントは100あるから好きに割り振ってね」
好きに割り振っていいそうなので無難にDEXとAGIに多く割り振って後は均等にします。魔法も使えるようにINTにも少し多めにしましょうか。STRとVITは特に使う機会がなさそうですね。極振りは論外ですが悩みどころです。ようやく決め終わってクグリさんに伝えると「良いんじゃないか」とお墨付きを頂きました。
「良い感じだね、じゃあこれでアバター作りは終わりだよ!お別れになっちゃうけど新しい世界を楽しんで!」
彼がそういうと私の視界はブラックアウトしました。バイバイという彼が少し寂しそうに見えたのは私の勘違いではないはずです。だって彼はAIでありながら私が今まであった中で一番人らしく暖かかったのですから。
次に私が見たのは賑やかな噴水広場でした。配信直後だからでしょうか、プレイヤーがあまりいないように見えます。チュートリアルはウィンドウから受けられるそうなので私もウィンドウを開いてみました。
『チュートリアル【鍛治師の心得】を受注しますか?』
私は迷わずYESを押します。生産ギルドに行けとの指示に従い私は生産ギルドにたどり着きました。受付嬢に話しかけると勝手に話が進んでいき、工房に案内されます。
『資材は全て用意してありますので早速一振り打ってみましょう』
「早速すぎませんか?」
うだうだ言っても仕方ないので手早く手を動かします。焼き入れまでは全面的にアシストが働くので問題はありませんが焼き入れからは私自身の力量がほとんどになります。とりあえず何回叩くかどこを叩くかなどはナビが教えてくれるので勘で叩くしかありません。やはり現実の鍛治よりも大分簡略化されているようです。そもそも一振り作るのに1、2週間くらいですのにゲーム内だと半日程度で作れてしまいます。
結局、仕上がったのはログインしてから半日ちょっとかかりました。ゲーム内の時間は現実の4分の1なのでログインしてから3時間程度しか経っていないことになります。
☆4 鉄の短刀(夢幻剣)
柄の部分に薔薇の細工がされた鉄の短刀
所持者:セロム
武器スキル:【蜃気楼】
特効:【STR上昇】【VIT上昇】
自分でも流石にわかりますがチュートリアルで作って良いものではないですよね。夢幻剣って名前は私がつけたものですが何故かこの名前じゃなきゃいけないと思ったのですよね。この剣は私のものです。私が始めて生み出したのですから。装備してみましょうか?今だにステータスも見ていませんからね。
個体名:セロム
種族:小人族
性別:女性
HP:80
MP:60
STR:5〈+10〉
DEX:40
AGI:40
VIT:5〈+5〉
INT:10
装備
【初級冒険者の服】
【初級冒険者の靴】
【夢幻剣】
空きスロット4
スキル:【鑑定Lv.1】【分析Lv.1】【火属性魔法Lv.1】【熱操作Lv.3】【鍛治Lv.3】【夜の蝶Lv.1】【蜃気楼Lv.1】
装備欄には夢幻剣の方の名前で出るのですね。鍛治のレベルも上がっていますしなかなかバランスのとれたステータスでしょうか。しばらくは鍛治をしてそのあと【調合】でも取りましょう。後、思ったのですけど鍛治で使ってる大槌って武器に出来ませんかね?持ってみると分かりましたけどもはや鈍器以外の何物でもないのです。装備してみましょうかね?…………出来ちゃうんですね。まぁ、良いです。確か始まりの草原にはホーンラビットとコボルトがいたはずです。コボルトは金属をドロップするはずですから行ってみましょうか。