プロローグ
〝Another World Online〟通称〝AWO〟は現在人気沸騰中のVRMMOのゲームである。そんな説明を数十回も受けていれば溜息も吐きたくもなるでしょう。こんなことも目の前の愚弟はわからないのでしょうか?姉として反省すべきですかね。
「なんで溜息を吐くのさ、姉貴!良いじゃん、面白いから!やろう!?」
「さっきから拒否してるのですが?いつからリューくんは頭のネジを失くしたのですか」
「遠回しに馬鹿って言ってる?姉貴だってゲーム好きだったじゃん!」
「オンラインじゃなければ良いんです。人と関わるのは苦手なので」
「人と関わるのは苦手」という一言でリューくんも黙り込みました。本当に人と関わるのは苦手なのです。今から数年前の高校生の時、私は口下手なようでかなり孤立していました。それだけなら良かったのですが学年で結構人気な男子に告白され、断ったのがきっかけでクラスの中心的な女子グループに俗に言ういじめを受けていたのです。そこまで私は気にしていなかったのですがリューくんが怒ってくれて結局通信制の学校に移りました。だからリューくんとの約束を守る為にもあまり人とは関わりたくないのです。
「姉貴が人と関わるのが嫌なのも、俺との約束を守ろうとしてくれることも理解してる。けどさ、そろそろ進まなきゃいけないと思うんだ。あの時はまだ中学生成り立てで無力だった。けど今はもう高校生なんだよ!もう守れるからさ、ちゃんと俺が守るから一緒にやろう?もし嫌になったらもうやらなくても逃げちゃっても良いから」
「……分かりました。やります。ですがちゃんと守って下さいね?でもヘッドギアって高いで「守るから!それにベータの時の特典でもう一つ貰ってるから金はかかんないよ!」そうですか、それは重畳」
リューくんとの約束はただ一つ「我慢しないこと」です。ただVRMMOのゲームはしたことがないのでリューくんに教えてもらわなくてはなりませんね。
「姉貴、あとさリューくんって呼ぶのはやめてくれよ?まず俺の名前は龍斗だし、ゲーム内ではドラグだから。もう龍斗って呼んでもらうのは諦めるからせめてゲーム内ではドラグって絶対呼べよ?リアルがバレちゃうからさ?」
「ふむ、そういうものなのですね?では私も名前を作らなければならないのでしょうか」
「そうだな、姉貴の名前は零だからそれにまつわる奴の方がいいんじゃないか?零にまつわるやつな……」
「零、英語にするとゼロ、スペイン語にするとセロになるのですよね」
「ゼロは安直過ぎるからセロの方だよな。使うとするなら」
「セロ……セロファン?」
「何で!?」
「冗談です。セロと何かを足せば良いのではないでしょうか?何かあります?」
「姉貴は何かハムスターに似てるよな。小動物っぽくて」
「そうですか?セロハム?なんか語呂が悪いですね。セロムとかでしょうか?」
「良いじゃん!! 早速登録しちゃおうぜ」
リューくんはパソコンを操作すると〝AWO〟のサイトに飛んで登録を済ませました。無事、登録できたようでホッと一息つくとリューくんが何かに気づいたような顔をしました。なにかと問えばスキルと職業を決めておいた方が良いとのことだ。始めのアバター作りの時間はあまりないらしいので決めておくと後が楽らしい。リューくんは剣士らしいので剣術スキルを自動で取得できるようだ。戦闘職でリューくんのオススメは弓術士や魔術師だそうだ。
「生産職のことはよく知らないけどな」
「そうですか。リューくんと肩を並べて戦うのもワクワクしますけど、生産職でサポートするのも良いですね」
「そうだな、でも現実での技能も結構反映されるらしいぞ?一定水準まではどんなに下手でも上がるらしいけど。姉貴は大体のことは完璧に出来るだろ?料理以外は」
私何故か料理は出来ないんですよね。味は良いんですけど見た目がリューくん曰く「人の食べるものじゃない」だそうで。でも料理以外は人並み程度にできると思います。裁縫は大分得意ですし、私達の叔父さんが鍛治職人なので基本は教えてもらいました。後、母が薬剤師だったので薬学の本とかは読みましたし調剤の仕方は理解しています。だから生産職向けなのでしょうかね。悩みどころです。
「俺、夕飯の支度してくるからそのパソコン適当に使ってて良いからな」
「分かりました」
リューくんはキッチンに向かいましたか。鍛治師とか良いかもしれませんね。これならリューくんの剣をつくってあげられそうですし。そういえば職業って一つだけなのでしょうか?調べてみましょう。
「……なるほど、職業は初めに決められるのが一つで条件をクリアすると追加で取得できるのですか。私的には調合師もやってみたいのですよね」
……決めました!そろそろリューくんも夕飯を作り終わっている頃でしょう。運ぶのくらい手伝わせてくれますよね?私がキッチンまで行くとリューくんは既に盛り付け終わっていました。
「リューくん、運ばせて下さいな」
「仕方ねぇな、運ぶくらいはして良いから。その泣きそうな顔やめろ!?」
「はい!」
運び終わり夕飯を食べ始めるとリューくんが先に口を開きました。
「結局職業決まったのか?」
「そうですね、とりあえず鍛治師にしようと思います。後ほど調合師などの職業も取れたらと思ってもいますけど」
「良いじゃん!! そうだ、スキルはどうすんの?鍛治スキルは自動で取れるから魔法とかいくつか取っておく?生産職でも護身用的なのあった方が良いだろ?」
「そうですね、一応調べましたけど属性は七つあるのですよね」
属性は火属性、水属性、風属性、土属性、雷属性、闇属性、聖属性でしたね。私の場合はをよく使うことになるでしょうから火属性とかがいいでしょうか。
「火属性にしようと思います」
「そうだな、良いんじゃねぇの?火属性は結構一般的だからな。それは取るとして後三つ取れるぞ?鍛治、火属性魔法、後鑑定とか分析とかか」
「鑑定と分析でしたか、二つとも補助スキルだったはずですね。後一つはもう考えてあるのですが秘密にしても良いですか?」
「おう、良いけど。あっ待て、種族はドワーフかランダムにしておけよ?ランダムは三回引けるし、三回やってダメだったら基本種族の中から選べるから」
「分かりました」
夕飯が終わり、私もリューくんも自室に戻りました。配信開始は二週間後の夏休みに入ってしばらくした日らしいので宿題を終わらせなければなりません。