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え? 待って! 主が見放すって聞いてない!

  おかしいな。

  俺はさっきまで高校で気体の内部エネルギーについての授業を受けていたはずだ。

  公式の理屈を勉強していたところで急に浮遊感が俺を襲い、意識が飛んだ。

  そして今、目の前に広がるこの光景はいったい。


「嘘だろ……あの天才とも謳われた『魔術師の姫』の使役魔獣がゴブリンだって?!」


  視界に飛び込んできた風景は全員、白いローブを着て手に杖を持っている人達だった。


  え? なにこれ? 新興宗教?


  俺は辺りを見回す。

  俺の周りには何やら幾何学模様のファンタジー物でよく見る魔法陣があり、向かいに黒髪で腰まである同様に白いローブを着た女性がいた。

  その女性の目はハイライトが消え、俺をじっと見ている。


  いや、普通に怖いから。そんな目で見ないで下さい。


  それにしても空気が変だ。まるでクラスで1番優等生だった奴がなぜか受験に失敗してしまった様な。この感じ懐かしい。

  ん? それは俺かって? やかましいわ。


  そんなことよりも現状把握だ。


  俺はさっきまで物理の授業を受けていたはずなのに今では、社会の教科書とかで見るギリシャの神殿のような場所にいる。


  そして彼女を囲んでいる白ローブ達の言葉から察するに、これは何かの儀式のようなものらしい。


  召喚、儀式、杖、ローブ、神殿、魔法陣。

  異世界転移やないかーい。


  高校2年になって勉強が忙しくなり、見る機会が減ったラノベなんかでよく見る、異世界転移。まさかそれが当事者の自分になるなんて。当事者になったら分かるけどこれはめちゃくちゃ迷惑だな。


  そこで俺は1つの違和感に気づく。


  体の大きさが小さくなっているのだ。

  俺の身長は172センチほどだったのに、この目の前の人間(仮定)の膝立ちぐらいしか背丈がない。明らかに小さくなっている。前の方々が巨人の可能性もまだ捨ててはいないが。


  そして体を見てみると、着ていた学生服はどこにいったのやら、腰に巻かれた汚い腰巻以外何もなく、肌はシュ○ックのように真緑だ。


  さっきのあいつ、確かゴブリン(・・・・)って言ってなかったか。


  そこで頭の中で散りばめられていたパズルのピースがカチッと合わさった。


  ファンタジーの世界で召喚され、ゴブリンになっている。


  これはあれではないか、まさにゼ○の使い魔まんまの設定に若干、呆れてしまった。


「貴方が私の使い魔なの……?」


  ハイライトのない目が特徴の黒髪女性がボソッと言った。

  いや「貴方が私のマスターか?」みたいなノリで聞かないで欲しい。

  知らないから、呼んだのお前だから。


「知らねぇよ……」


  俺はあまり期待せずに思ったことを口に出して言ってみた。

  いやまさか、喋れるなんて思わなかったわけで。そんなことを考える前に周りの空気が変わった。


「召喚魔獣が喋った?!」

「えっ?! っていうことは6等級以上の召喚魔獣ってこと?! ゴブリンなのに?!」

「いやっ! でもこれゴブリンだし!」

「あははっ! 喋れるゴブリンなんて聞いたことねーよっ! やっぱ天才は召喚魔獣も変なやつになんのなっ!」


  驚きと興味と、やっかみが合わさり、周囲が騒がしくなった。

  けれど一向に目の前の女性はフリーズしたまま動かない。


「静粛に」


  瞬間、ひとつの物音をしなくなった。

  どうやら俺の背後にいたらしい彼は他のものが白いローブを着ているのに対し、黒のローブで歳を重ねているらしい。

  教師のようなポジションになるのだろうか?


「確かに召喚魔獣としてゴブリンが出てくることも、喋る点においても珍しいがまだ常識の範疇だ、さっさと能力鑑定をしてしまうぞ」


  そう言って、黒いローブの男は杖を掲げる。


『鑑定』


  すると俺の目の前に石板が現れた。


  うわっ! これが魔法か、非現実過ぎてイマイチ実感が湧かないな。


  黒ローブがもう一度、杖を振るうと石板が上昇し、俺の頭の上に来るやいなや、大きくなった。


  そして周りの者、目の前にいる女性を含めて頭上の石板を注目する。


  周りの者の1人が吹き出した。


「レベル1……? 嘘だろ。聞いたことがねぇよっ!」

「レベル1の召喚魔獣なんて、本当にいるんだ! これって逆にレアなんじゃないの?!」

「等級も1だぜっ?! はっ! これはこのクラスでの最上位魔術師も代替わりだなっ!」

「『魔術師の姫』もこんな召喚魔獣だなんて可哀想にっ!」


  周りは揶揄と嫌な笑いで盛り上がった。


  少し気分が悪いな。


  目の前の女性はぷるぷると肩を震わせている。


  ばっと、顔を上げて俺の顔をきっと睨むと走って神殿から出ていってしまった。


「ちょっと待ちなさい、エリオノールっ! まだ儀式は終わっていないぞっ!」


「せんせー、ほっときましょうよあいつのことなんて、大体あいつずっとお高くとまっててちょっとウザかったんですよね。ちょうど俺たちの軍学校への入隊もすぐだったし、あいつの落第はラッキーでしたよ」


  彼の言葉を皮切りに一斉に彼女への不満が吐き出される。

  それには聞くに及ばないような、罵詈雑言だらけだった。


  俺は気分が悪くなりながら、頭上のたぶん、ステータス表示を見てみる。


 名前:なし

 種族:ゴブリン

 等級:1

 レベル:1

 ステータス:F

 攻撃力:3 F

 防御力:4F

 魔力:5 F

 知力:25 E

 スキル:『呪い』『 』『 』


  はぁ、ため息がつきたくなるようなステータスだった。

  いやでも、と思い返す。

  これは絶対に強いパターンだ。

  スキルのところの『呪い』と空いている『』が俺の道の可能性を示してくれている。

  大体、こういうのは測定不能とかで空白のことが多いのだ……たぶん。


「取り敢えず、まだ他の者達の召喚魔獣召喚が残っている。そこのゴブリン、言葉は分かるかね? そこは邪魔になるから主が帰って来るまで隅にいなさい」


  黒ローブがしっしっ、と手であっちいけと言ってくる。

  俺は若干イラッとしたが、ここで楯突いても仕方がないので大人しく隅に移動する。



  そこからは淡々と召喚の儀が滞りなく行われた。

  ゲームなんかでよく見る多種多様の魔物達が魔法陣の中心から出てきて、黒ローブが鑑定をしていく。

  それで一喜一憂している間に全ての人の儀式が終わった。


  ちなみに俺の主(仮)は帰ってきていない。


「今日は軍学校に入隊する前のパートナーとなる召喚魔獣の儀式をした。これでお前達は立派な魔術師だ。それを意識してこれからの活躍を期待する。あと、この後に6等級以上の召喚魔獣を召喚した者には別で話があるから来るように」


  僕の目の前はまさにファンタジー。

  大きな巨人のような魔物もいれば、全身甲冑の強そうなのもいる。ちなみにそいつは7等級。


  周りの生徒達もこれからの未来に顔を輝かせているものや、召喚魔獣の結果や見た目が好みでなかったものなどの落胆している者、三者三様だ。


  あ、1等級は俺だけです。

  いやー、なんでですかねー。

  さっきから召喚された魔獣達の目が痛い、なんでお前みたいなのがいるんだ感ね。

  はぁ。


「自分の召喚魔獣の等級にあまり一喜一憂せずにこれからの健闘を祈る、では解散」


  黒ローブの言葉を合図に、周りの白ローブも神殿を出ていった。


  黒ローブは1度、こちらをちらっと見ると、何も見無かったように彼もどこかへ行ってしまった。


  そして辺りはどんどん暗くなっていく。



  ん? ちょっと待って、俺のマスターは? え? えぇぇぇぇぇ!




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