黙示録
私立ホールズ学園。
そこでは海風薫る中、生徒たちは日々文武両道を目指し、必死に学び、互いに切磋琢磨している。
公式ホームページに掲載されている学訓は次のとおり。
『本学における教育方針は、創立当初は「清く正しく美しく」。
しかし変わりゆく時代に取り残されぬよう、また生徒の自主性を育むよう、生徒自身の手による標語更新制度を取り入れたところ、
「強くあれ優しくあれ」
「強さとは筋肉」
「ゆりかごから墓場までひたすら鍛える」
「ビッ〇コイン万歳」
「働かないで食っていけるんじゃねコレ」
「ビット〇イン許さん」
「愛などいらぬ。金がいる」
「同情するなら金をくれ」
と個性豊かなものが並ぶ事態に。
直近のものは「忖度有罪」となり、全校集会で部活動予算案に疑惑的アクションを入れた生徒会会計補佐が辞任に係るシュプレヒコールを受けたのは記憶に新しい。
過激な思想教育を疑われ、教育委員会と公安のダブル査察が入ったのも記憶に新しい。
さて、めでたく創立二十周年を迎えた本学においては、保護者の皆様の多大なるご支援により近隣のライバル校に経済的大差をつけておりました。
有り余る実弾誠意に任せて組まれた特別教育カリキュラムは受験戦争にあってお子様たちも負け知らず。
寄付は一口十万円から承っております。パンフレットと振込用紙は玄関口でどうぞ。
また、東京湾に面した立地はアクアラインにも近く、ノーヘルで単車転がした馬鹿がそこを逆走し海にダイブして『狂った果実』と報道され、本学の入学志望者数をガクンと下げてくれました。
お陰様で寄付金額は右肩下がり。現在行事の一部は学園長の財布で賄ってございます。
寄付は一口十万円から承っております。
某げっ歯類の生息地にも近いため、遊びたい盛りの本学生徒の素行と成績の悪化に一役買っているところ。
先日はパレードを乗っ取りました。今もなお乗っ取っています。近隣住民のみならず世間の皆様方には誠にご迷惑をおかけしております』
そんな愉快な学園(本作の登場人物は全員十八歳以上です)で巻き起こるドタバタえっちなハプニング!
可愛い上級生はすぐに表情が曇る。
優しい同級生もすぐに曇る。
サディズム溢れる下級生はただひたすらに誰かを曇らせる。
その上、生徒は攻略対象外。出番も僅か。
表情差分はほぼ曇り顔一択。
誰一人として仲良くなることは出来ない。
笑いあり涙あり!
さあ、王道ラブコメ青春ストーリー、「インスタント・メサイア」はじまるよ!
それでは、本編に入る前にキャラクター紹介をご覧ください!
【ナイン(主人公)】
本学の平凡ないち男子生徒。人間。二年生。
いつも陰鬱な顔をしているぼっち。両親はおらず、親戚の家に預けられているらしい。
休み時間は机の上に突っ伏しており、昼休みには教室にいるのが苦痛と言わんばかりに姿を消す。
最近、不登校気味な彼の生活に変化があったようだが……?
【クリステラ・ヴァーラ・デトラ】
天使のような翼を持つ生徒会長。二年生。
メインヒロインみたいな顔をしておきながらほとんど出てこない。
一部の心ない生徒からは、金と家柄でメインヒロイン株を購入したとの声もある。
忖度有罪事件により支持率が低下し、近頃はクーデターの影に怯え、不登校となる。
しかし曇った顔は大層可愛らしかったと、生徒からの人気は上昇した。
だがやはり出てこない。攻略できないヒロインに価値はあるのか。
かつてニーチェはこう言った。
「事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである」
生きる上での冷たく優しい慰めである。即ち、彼はこう言いたいのだろう。
「こんなのメインヒロインとは到底言えないかもしれないが、確言はできない。しかし人気投票をすれば恥をかくのは自明の理であろう……」
それでも彼女はメインヒロインです。
シュレディンガーのメインヒロインなんです。
【エレクトラ・ヴィラ・デトラ】
生徒会長であるクリステラの妹。悪魔のような翼を持つ。ちみっこい。一年生。
クリステラより人望があり、彼女のファンクラブが会長打倒のクーデターを画策している。
そんなファンを見て、彼女はただ微笑むだけだ。
人を使うことを若年にして覚えた彼女は、将来、本邦初の女性総理として歴史に名を残すことになる。
もちろん本編ではほとんど出てこない。
だがちょっと待ってほしい。
攻略できずともロリータには常に価値があるのではなかろうか。
中学生以上はロリではないという不届き者もいるらしいが、とんでもない。彼女はロリである。
ところで、かつてエマーソンはこう言った。
「世界史に残るような偉大で堂々たる業績は、すべて何らかの熱中がもたらした勝利である」
かく言われるからには、我々はロリに熱中し、社会に勝利すべきである。
少子化対策を謳っておきながら女性の結婚可能年齢を引き上げる事にどんな正義があるというのか。
【アロマ・サジェスタ】
若くして、後述する親戚の少女が通う学校のPTA会長を務める才女。羊のようなツノがあり、また、悪魔的な美貌を持つ。
夫を早くに失くしたため、熟れた身体を持て余している(そうはいいつつ処女である。未亡人という属性を持っておきながら言語道断、これではそういった嗜好を持つ者を満足させられまい)。
公園の裏路地で暴漢に襲われそうになったところをナインに救われ、徐々に親しくなっていく。
ある日の事、一緒に映画を見た帰り、急な夕立に襲われた二人は慌てて休めるところを探す。しかしナインが手を引く先には、「ご休憩:三時間ご利用五千円」の文字が……。
「いけません、私は夫に操を立てているんです」
「僕には……僕には貴女しかいないんです! 僕の事を名前で呼んでくれたのは、貴女だけだったんです」
若い雄に熱い視線を向けられ、アロマの身体は火照った。
ああ、アナタ。ごめんなさい。私はアナタのところへは行けません。
私はこの男の子と一緒に、地獄で罪を贖います……。
――堕ちた未亡人。『ごめんなさいアナタ許して、今日からは喪服を脱いで一人の女になります』……昨今ではまず見られないアダルトビデオのタイトルセンス。
こういうのはきちんと後世に残していくべきではあるまいか。
【ガロン・ヴァーミリオン】
ノーヘルで単車転がして海にダイブしたお馬鹿。人狼。三年生(本日付で除籍)。
奇跡的に事故の際に傷の一つもなく、「海ほ〇るPA」「ライ〇ーのサ〇ヴァント」などと呼ばれる。
周囲から持ち上げられて調子に乗った彼女は後日最寄りかつ本邦最大規模の某テーマパークに子分を引き連れて進撃し、ギターをかき鳴らしながら練り歩き、警備員を千切っては投げ千切っては投げ。
明日ではなく今日のみ見据えて生きる彼女は、今まさにトップニュースとして報道されており、お茶の間にホットな話題を提供中。
反英雄となった彼女は止まらない。伊達に『狂犬』の仇名で鳴らしたスケバンではない。
彼女は既に、子分に命じて某所から強奪してきた着ぐるみによって「エクストラクラス:チ〇バ君」にフォームチェンジし、ランドの秩序と各方面の知的財産権を侵し続けている。
その所業は学園長の胃と精神を完膚なきまでに破壊した。
夢から覚めるその瞬間、学園から自分の椅子がなくなっていることに気がついたまさにその時。
きっと彼女はこの上ない曇り顔を見せて……おおっと、機動隊突入の速報テロップ。
【エヴァ・カルマ】
学園長。年齢不詳のダークエルフ。
自由過ぎる生徒達を抑え切れず、胃薬が手放せない。
ストレスからの解放を求めた結果ゴスロリファッションにはまり、目を指で隠した自撮りをこっそりインス〇グラムに上げていた。
褐色肌で目立つのですぐにバレ、セルフィー学園長と呼ばれる。
これが彼女の精神に致命傷を与えた。
ヤケクソとなり公式ホームページを上記の如く改竄し、休職した彼女は懲りもせずにam○zonでフリフリリボンを注文したところ、アロマと生きる覚悟を決めて配達バイトに勤しんでいたナインにゴスロリチックな家の中を見られてしまう。
「お願いだ……誰にも言わないでくれ。教頭に約束してしまったんだ、もうやらないって……」
「そんなこと知りませんよ。もし黙っていて欲しいんだったら、誠意を見せてほしいもんですね」
「自分一人の力で社会復帰できないと……教頭が安心して仕事に戻れないんだ!」
……アロマとの生活を夢見る青年は、独力で生きていくだけの資本が必要だった。
(この街では彼女と暮らせない、だから……誰も自分たちを知らない街に行こう)
そんな視野狭窄に陥った青年は、健気な学園長の言葉に耳を貸すこともなく悪事に手を染めようとした。
「誠意というものは、言葉ではなくお金です」
女から巻き上げた汚い金で、別の女を養おうというのか。
そのような自らの良心の咎めは、耳に届かなかった。
しかし。
エヴァは、男をダメにする類の女だった。
そして、ナインは自律心のない男だった。
始めはアロマのためと言っておきながら、だんだんとアロマの元へと通う回数は減っていく。
そしてナインはその手を穢す。
エヴァのヒモとして、女性の敵として、貴重な資金をパチンコで減らしながら、過去の女など忘れたかのように。
これは、たった一人の不誠実な人間による賭博黙示録。
彼は一点張りの馬券と底の無い全ツッパで、自分から軍資金を奪った騎手を恨み、憎み、ネットの風評被害へと引きずり込んでいく。
【セルフィ・マーキュリー】
学園長セルフィー事件の被害者。吸血鬼の二年生。
何も悪い事してないのに偶々名前が一致したため、あだ名が「学園長」となり、ショックを受けて不登校となる。
傷心の最中、散歩に出た際、たまたま目に入ったのは、同級生の男の子と学園長の密会。
――自分が辛い目に遭っているのに。ふざけた事を……!。
自分が不幸なのに、祝福されるべきではない関係の二人が、デートをしているその事実。
自分を不幸に叩き落した相手 (学園長)が、たとえ泡沫の夢だとしても、男の腕にすがって媚びた笑顔を向けているその事実。
……許せない。
彼女の目に暗い火が宿った……。
【アビス・ヘレン】
学園長セルフィー事件の被害者その2。人間。二年生。
学園長が学園の品格を落とすような真似をするはずがないと擁護したものの、言い逃れしようのないセクシーショットが校内掲示板に貼り付けられた為に求心力を失った。
なお、彼の援護射撃は地味に学園長の退路を削り取っていった。
挙句、学園長に気があるのかとからかわれる羽目に陥り、不登校となる。
彼はショックだったのだ。
自分が本当に好きな人に……ナインに、そのように思われるのが辛かったのだ。
彼はそっちの人であった。純愛である。馬鹿にするな。
傷心の最中、散歩に出た際、たまたま目に入ったのは、ナインと学園長の密会。
――自分が辛い目に遭っているのに。ふざけた事を……!。
自分が不幸なのに、祝福されるべきではない関係の二人が、デートをしているその事実。
自分を不幸に叩き落した相手 (学園長)が、自分の恋する男の腕にすがって媚びた笑顔を向けているその事実。
……許せない。
彼の目に暗い火が宿った……。
【アリス・クラックス】
アロマの親戚である狐の獣人。両親の仲が悪いため、離婚調停手続きが終わるまでアロマの家に預けられていた。
「……やっぱり若い子の方がいいのかしら」
自分より年かさの女に溺れているとは夢にも思わず、アロマはそうぼやく。
憎い……若さが憎い……。
……でも。
若いこの子が協力してさえくれれば、ナインは戻ってきてくれるのでは……?
そんな仄暗いアロマの目線にも気づかず、アリスは今日もホールズ学園への入学を目指して受験勉強を頑張っている。
「すみません、ここ教えてください」
「……ええ、いいわよ」
……色々と教えてあげる。これからの身の振り方をね……。
――捧げる――
アロマのこの言葉をどこぞの蛇と歪な卵が聞き遂げたが、したことと言えばそれぞれ精々が欠伸くらいである。
いずれにしても一切物語に関与しないので割愛する。
【ピュリア・ハープ】
アリスの同級生。ハーピー。彼女はこれらの馬鹿げた関係に一切関わることなく、関西方面に進学し幸福な生を送る。
【ティア様】
近所のペットショップで売れ残っていた蛇。
近日処分予定であったが、たまたま暇つぶしに店に入ったナインの腕に絡みつき、店員が引き剥がそうとするも離れず、どこか哀れに思ったヒモはエヴァ学園長のカードで一括払い購入。
蜘蛛の糸のカンダタのような気持ちになりながら餌のピンクマウスを解凍していたところ、なんとこの蛇、昔話の鶴のように人の姿になって、「恩返しをする」だなどと言い出した。
ナインは逃げ出した。当たり前である。
己が精神を失調したと確信し、これまでの悪行がこの幻覚の所以であると悔やみ、エヴァの元を離れてアロマとの関係をも清算しようとする。
しかしそこに立ち塞がるのは、セルフィーしなかった方の通称学園長。エヴァ学園長の大事なもの……即ちナインを壊してやろうと思いつめ、金属バットのフルスイングを繰り出してくる彼女はまさに人間大砲。スカウト垂涎の、体軸のブレが一切ない腰の入ったバッティングは、一度当たれば確実にナインの骨を粉砕する事であったろう。しかしそうはならなかった。
アビス・ヘレンの乱入である。
「逃げるんだ、ナイン君!」
ろくに話した事の無い――しかし尻周りに妙に熱い視線を向ける事がある――同級生が庇ってくれた。
こんな不実な自分の事を……!
ナインは己のこれまでの所業を一層悔いた。
かたやセルフィがフェイントのスイッチングを披露すれば、アビスは改造済み警棒型スタンガン(何故そんなものを持っているのか、ナインには疑問に思う余裕がなかった)で堅実に迎え撃つ。
ナインは思う。
――すまぬ……すまぬ……!
アビス・ヘレンよ、生き延びてくれ。明日はちゃんと登校するよ。
君もどうか、どうか無事な顔を見せてくれ。
そしたら一緒に牛丼でも食いに行こう。奢るから。きっと明日は良い日になるさ――
ナインは走った。
アビスが勝利すれば、学園長が生命の危機に陥るだろうことなど、露とも思い至らぬままに。
――大立ち回りを演じ始めた二人を置いて這々の体で逃げ出せば、なんとかアロマの家の前まで辿り着いていた。
しかし中にはアロマはおらず、代わりにシャワーを浴びていたらしいアリスの姿が。
慌てて目をそらすも、そっとバスタオルだけを纏ったアリスが、ナインに触れながらこう囁く。
――あたしのことを憐れんでくださるなら、お情けをください――
ナインは、先程再度芽生えた良心の咎めに怯えながらも、彼女の肩にそっと手を伸ばす……。
……アリスは、アロマに懸想をしていた。
小さい頃から大好きだった親戚のお姉さんである彼女が結婚すると聞いたときは、泣きに泣いた。
そして結婚から僅か数日……ひょんな事から彼女の夫の不貞を目撃してしまう。
……偽名と偽のはんこで購入した酢酸バリウム(刑法第159条第3項、私文書偽造等の罪の他、毒物及び劇物取締法等各種法令に違反する。良い子は真似してはいけない)。
アロマに気付かせぬほどに証拠を残さなかった、夫自身による完璧な浮気の証拠隠滅。
それによる、怨恨なきとの警察の判断。
――各要因が絡み合い、夫の死は事件として処理されず、若くして心不全により亡くなった不幸としてのみ記録された。
アリスはアロマの事を、己を愛さなかった母の代理として、まさしく母に対するかのように依存し、そして倫理を逸脱するほど過剰に愛している。
そんな彼女にとってナインの存在は……。
先にベッドに向かわせたナインの背を追い、その右手に握っている包丁は、彼の心臓に届くのか。
それとも……。
ちなみにその頃ティア様は、解凍が終わったマウスを喉につかえて、必死に飲み込もうと四苦八苦していた。
――こんな愉快な仲間たちが引き起こす、ドキドキワクワクの青春ラブストーリー。
乞うご期待!
エイプリルフールなのでやってみました。
編集さんに最初にお見せしたら、「君、やっぱり頭おかしいよ」と言われました。
「やっぱり」ってどういうことでしょうか。
だけど広報ブログで紹介してくれました。本当にありがとうございます。
やっぱりあの人は良い人です。
http://blog.over-lap.co.jp/aprilfool_instantmessiah/
勿論続きませんし、本編はこんな内容ではございません。
しばらくしたら普通の登場人物紹介に差し替える予定でございます。
多分やり過ぎましたし、詰め込み過ぎました。
パロネタやメタネタは程度を弁えろと散々言われておきながら、やってしまいました。
やるべきではなかったのだろうと、書き終えて冷静になった今は、そう考えております。
それでも投稿してしまいました。
何卒お許しください。
出来心だったんです。
私が全部悪いんです。
㈱オーバーラップさんがイ〇スタグラム関係の企画を広報でやってくだすったので、こりゃあ自分も黙っておれんと。
そんな努力がすっぽ抜けただけなんです。
ここまで尽くしたのに、彼らは私のこと頭おかしいって言うの。
こんなの絶対おかしいよ!
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即座に修正・削除いたします。
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何卒、何卒よろしくお願いいたします。