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人じゃないものを見た。

鱗に覆われて、大きな爪があって、でも人のように立っている。

あれが、化け物というのだろう。怪物というのだろう。昔観見ていた特撮番組に出てくるような、まるで飛び出してきたような姿。

まず、足が震えた。

何かの撮影だろうと疑ったが周りには2人しかいない。着ぐるみやスーツじゃなく、実際に人の皮膚が鱗に変わって行くのだ、こんなの普通に考えればまずあり得ない。怪奇現象?いや、それよりも恐ろしい何かだ。

何か……、怪物と言い切るには何か違う。だから何かだ。

……逃げるのか?

今逃げれば恐らくは助かるだろう。

あの爪で心臓を抉り取られることも無い、あの牙で肩から裂かれることもない、あの顔に恐ることもない。

誰だって自分の命が愛おしい。

犠牲になる必要もない。

それに対して誰も責める権利はない。命は平等、それを管理するのは自分だけ。自分の命を守ることは当たり前だ、生きる権利を否定される理由などないのだから。

人は弱い生き物だ。

我が身を守る為にも、強くなくてはならない。

ましてやこんな何かは拳銃でも無い限りは。

だが、だからこそ彼は抗う。

……そこに消えそうな命があるなら、自分よりも弱い人がいるなら。


何も考えない。

ただ自分の足を進めるだけ。

前へ、前へとその距離を縮めて行く。だが、何かの爪が目の前の少女へ振り下ろされる速度は早くとても走っていては間に合わない。

唇を噛み締め、少年は次の一歩で前へと高く跳ぶ。矢のように垂直に飛び込み、少女にぶつかる形で倒れていく。

爪が自分達を捕らえることは無かった。


「い、てて……大丈夫か!?」

「は、はい……えと」

「良かっ………〜〜〜〜!」


手のひらに伝わる柔らかな感触。

まるでマシュマロでも握っているかのような弾力に秀久の顔がが真っ赤に染め上がる。真下には髪が広がっている少女が不思議そうに見上げていた。

……つまりだ、この体勢は。


「ご、ごめん!」

「うん、大丈夫……」

「……う、な、何か?」


立ち上がりながらじっと秀久の方を見る少女。

先程のことを怒っているに違いない。

秀久は若干目線を外しながらも、探るようなな尋ねる。


「あなた……『邪魔だガキ!』危ない!」

「うわっ!?なーー」


秀久を突き飛ばし、少女は弾き飛ばされるように宙を舞う。

目の前の化け物は爪を舐め、舌打ちをしながらもニヤリと笑った。……赤い目がギョロギョロ動いていて気味が悪い。慌てて距離を取る秀久だが、咄嗟に少女が飛んで行った方へ走る。


「おい!おい!……しっかりしろ!おい!」

「……っ」


秀久は転けそうになりながらも少女を抱き起こし、必死に呼び掛ける。青ざめた顔がにゆっくり手のひらが置かれ、優しく撫でていた。

……赤い手、地面に落ちる赤い……液。

それが何かなど直ぐに理解し、秀久の表情は必死なものに変わって行く。


「……良かった、……怪我が無くて」

「……え」


血が流れている顔で優しく微笑む少女。

……よく見れば身体中傷だらけじゃないか。呆気にとられる秀久の頬を撫でながら、少女は微笑する。彼の中から身を起こし、迫って来る化け物の方へと歩き出す。


「大丈夫……、……私のことはいいから逃げてください」

「で、でもそんな怪我して……駄目だ!」

「わたしは大丈夫だ、から、逃げて」

「あ……」


足を引きずりながら秀久から離れて行く少女。

駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。

明らかに戦える状態じゃない。

化け物は少女を殴り飛ばし、地面へと叩きつけていた。


「やめろ………」


少女の細い首を掴み、起き上がれないように足を押さえつける。


「ぁ……ああ」

『ハハハハハ!無様だなD01!最強だと謳われていたお前が今ではこんな姿だもんな!?』

「……私は……あぐっ?!」

『先ずはその細い首をへし折ってやる』


「やめろ」


出会ってまだ数分しか経っていない。

まだお礼も言っていない、名前も知らない。

何よりーー


「やめろぉおおぉおおぉおおぉおおぉおおぉおおぉおお!!」


死んでほしくない。

死んでほしくないから、生きて欲しいから、だから何も考えず、何も恐れずただあいつへ向かって行く。


秀久は精一杯のタックルをかまし、化け物の手が少女の首から離れる。だがそれは一瞬のこと。

化け物は秀久を鱗に覆われた腕で殴り飛ばす。


「がぁ…!」

「!?」


秀久の元へ駆け寄ろうとした少女の前に、化け物が回り込む。少女の血がついている爪を舐め取り、右腕を振り上げる。


「……っ」


爪が迫る。

……少女の体は既に限界が来ていた。


「がふっ!…ごっふ……」


化け物と少女の間に立った秀久を、3つの爪が刺し貫いていた。

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