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ようやく話が進み出します、

先には色があった。

谷にかかる大きく透き通った綺麗な橋。

赤、オレンジ、青、みどり、紫、黄色……。

昔観たことがあるそれは、今までより近く、大きい。まるで奇跡を見ているようだ。青い空の下でかかる虹は何かを祝福してるように輝きを放つ。

いつしか見た南極のオーロラにも、砂漠に広がるオアシスにも負けない光景、谷と谷を結ぶそれは世界の広さと世界の美しさ、世界の尊さを語ってるかのようだ。

ある友からの貰い物である一眼レフの写真に収め、テントまで戻るとキャンパスを広げる。画材を敷いてあるシートの上に並べ、折りたたみ式の背もたれ椅子を設置する。前に訪れた芸術の都で購入した木製パレットの上に、虹と同じ絵の具を一つ一つ並べる。

世界の美しさをキャンパスに表現する。

それは、彼女にとって幸せなひと時でもある。

筆を走らせ、色を真っ白なキャンパスに付けていく。そうやって真っ白な世界は、彼女の見た美しい世界に変わって行くのだ。

彼女はそうして世界の景色を描く。

ある者は彼女をただの絵描きと呼ぶ。

ある者は彼女を世界の諦観者と呼ぶ。

ある者は彼女を創造者と呼ぶ。

彼女がキャンパスに描いた世界は回った数だけ存在する。


彼女はまだ若く、しかし時間はない。


「お姉ちゃん、何書いてんの?」

「今日の景色かな、見る?」


サッカーボールで遊んでいた男の子達が高校生ぐらいの容姿をした少女に群がる。

少女は苦笑しながらスケッチブックを開き、男の子達から歓声が上がる。それはきらきらと濁りもない綺麗な瞳だ。少女はその光景に軽く感動を受けつつ、笑顔を絶やさずにそっと首にかかっている一眼レフで男の子達を写した。


「すっげー!お姉ちゃん絵描きさん!?」

「……ううん、趣味で描いてるだけだよ?」

「ねえねえ僕たちも描いてよ!」

「無理言うなよたくやー、お姉さん困ってるじゃん」

「それにもう帰らなきゃ夕日暮れるよー」


男の子達は夕日を見た後、急ぐように公園から走り出す。


「お姉ちゃん!また今度絵見せてね!」

「うん。またね」


手を振りながら帰って行く男の子達に手を振り返しながら、その背中が消えるまで見送る。

夕日の光が彼女を照らし、長い髪が風でふわっと揺れる。

膝丈の長さまである白いワンピースに、薄手の青いカーディガンを羽織っている。肌は白く、きめ細やかで肉つきも程よい。間違いなく美少女の容姿を備えた彼女を通りすがる男性は必ず一度は見てしまう。

少し垂れた優しい目つきと、桜色の唇、胸元には2つのメロンが……。


「また今度……か」


少女は折りたたみ式の椅子を仕舞いながら、キャリーケースにスケッチブックとペンを入れる。

不意に彼女の顔に影がかかり、太陽を黒く長いものが隠す。反応するより早く、黒い手が白い手を掴んだ。


「今日はこんな公園で絵を描いてるんだな、D01」

「……」

「おいおい、無視はないだろ?」


少女は男性の手を叩き、軽蔑を含んだ目で睨む。

スーツに身を包んだ男性は両手を上げながら、口笛を鳴らしながらからからと笑う。


「おー、怖い怖い、嫌われたもんだな俺も」


当たり前だ。

そう言いたいが如く警戒の姿勢を崩さない少女……D01。長い髪を左右に揺らしながら体制を低くする。拳に自然と力が加わり、黒い男性の表情は固いものへと変わる。

睨み合い……、威嚇、どちらとも取れる雰囲気が場をピリピリとさせる。


「言わなくても分かると思うが、迎えに来たぜお姫様」

「言わなくても分かると思いますが、私もう帰りません」

「いい加減諦めろよ。お前が生きる場所は決まってるんだよ」

「……貴方には分からない、この世界の、美しさが……」

「すっかり変わっちまったなD01。なら…


お望みどおりスクラップにしてやるよ」


黒い男性は帽子を投げ捨て、両眼が龍のような黄色い瞳と鋭利状の瞳孔に変化する。それに添うように顔から右肩にかけて皮膚が鱗のような形状になり、スーツが破け、鋭利状の龍の鱗と棘が二の腕を伝い指先まで変化させる。爪は人間のものから長いモンスターのような少し曲がった形に。


「……」


D01……。

化け物に変わる男性を見る目には哀しみが含まれていた。だからこそ、彼女は否定する。

……彼がくれた名前がある限り。

少女の名はみなも。涼宮みなも。

この世界に惹かれた、1人の女の子だ。


「……っ」

「ん?なるほどなあ……」


瞳の色が赤くなるが、数秒もしないうちに元の桃色の瞳に戻ってしまうみなも。

その様子にニヤリと笑いながら納得する彼に、ビクッと彼女の肩が揺れた。


「お前を殺すのは惜しいが、……裏切り者に用はない。なあ、D01?」

「違う、私は……みなも、涼宮みなも!」

「……すっかりつまらないヤツになったな、お前。……じゃあ、死ね?」


龍のような大きな爪がみなもに迫る。

……悔しい。

刹那に湧いた感情はそれだけだった。

何のために彼は犠牲になったのだろう。何のために逃げてきたのだろう、何のために生きてきたのだろう、何のために何のために何のために……。

小さな拳を握りしめ、少女は謝る。

……世界を、見せてくれた彼に。


「待って待って待って待ったーー!!!」


彼の爪が、視界から消えた。

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