死者に口付けを
あらすじにも記載しましたが、ネクロフィリア等のお話ではありません。
そういったものを期待していた方はブラウザバックを推奨しますが、それでも読んで頂けたら幸いです。
では、『僕』と『君』の物語。どうぞ。
彼女とは結構話すんだ。
昨日の事、今日の事、明日の事、いつかの事。
毎日話の内容は違う。
僕が話してる間、彼女は終始無言だ。
けれど、ずっと微笑んで僕の話を聞いてくれる。
毎日これは変わらない。
今日は何を話そうか。
そうだ、今日で付き合ってから1年経つし、僕達の出会いについて話そう。
「ねぇ、今日で付き合って1年だよね。今日は僕達が出会った時の事を話そうか」
「僕達が初めて出会ったのは大学の曲がり角だよね。お互いどちらも走ってなんかないのにぶつかって君は尻餅をついたんだっけ」
「その時に君は『あいたたた』なんて言いながらお尻をさするもんだから僕はその仕草がおかしくて、つい笑っちゃったんだよね」
「で、それを見た君は目に見えるように不機嫌になって『何か言う事は無いんですか?』って言ってきたから僕は焦りながら謝ったんだっけ...あ、後、立ち上がる為に手を求めてきたよね! あの時、凄い手がサラサラしてるなー、なんて思ったのを覚えてるよ」
「まぁ、その後、お互い何も無かったかのように自分の進行方向に進んでいったけど、それから何度か縁があって会う事が多くなって」
「連絡先とか交換して、友達達と一緒に遊びに行ったりしたよね」
「それで、僕はいつの間にか君の事が好きになっていたんだ。けれどまぁ、ヘタレな僕は告白なんて出来ずに友達のままでいれたらいいやなんて」
「そんな事が続くある日、君から呼び出された時はビックリしたよ。なんせ、友達達もいるって聞いてて時間通りに来たはずなのに君しかいないんだもの」
「僕が何事かと思ってたら君は僕に消え入りそうな声で『好きです、付き合ってください』なんて言うものだからさ、僕はドッキリの類かと思って振っちゃったよね」
「そしたら君は泣き出しちゃって『私の初恋...』なんて言いながら大泣きして、僕は嘘泣きかと思ってネタばらしを待ってたんだ。恐らくこういう罰ゲームなんだろうって」
「でも、いくら待っても友達はこないし、君はいつまで経っても泣き止まないもんで僕はそこでやっと気付いたんだ。これは罰ゲームで告白してきたんじゃない。本気で告白してきてくれたんだ。って」
「実を言うと、僕、告白なんてされたの初めてでね、本気って気付いたら凄くドキドキしてきて君に心臓の音が聞こえちゃうんじゃないか、なんて思ったりしてね」
「それで僕は俯きながら泣いてる君の顔をあげさせて、罰ゲームかと思って君を振ってしまったという旨を伝えて、僕も前から君の事が好きだった。って言ったら君は笑いながら『ひねくれてるんだね』って言ったら、また泣きだしちゃって僕は猛烈に焦ったのを鮮明に覚えてるよ。あと、『嬉し泣きだバカヤロー』って言って僕を軽く殴ってきたのも覚えてるから」
「あの日から2人、色々あったよね。懐かしいな...」
ふと、時計を見たら短い針が12時をさしていた。
明日は僕、朝早いしもう寝るとするか。
「さてと、僕はもう寝るね――」
おやすみ、と、言おうとした所で2人で昔やってた日課を思い出した。
懐かしいな。
それをすると君はいつも嬉しそうに破顔させていた。
その時の表情が好きで、毎日寝る前にしていた記憶がある。
久し振りにその時の顔を見たいな、と僕は君に近付き
キスをした。
2秒ほどのキスの後、唇を離し、君の顔を見つめる。
そして
「じゃ、おやすみ」
泣きそうになった僕は涙声混じりにそう言って部屋の電気を消し、寝室に向かった。
電気の消えた暗い部屋の中、写真の中の君はただ微笑み続けるだけだった。
感想を頂けたら幸いです。