現実世界へ
俺は外の轟音がうるさい現実世界を避け、LIFEで休息を取っていた。
ティリンティリン。
メッセージが入った音だ。
「ミル、メッセ……」
いつものようにミルにメッセージを見せてくれと頼もうとして、途中でやめた。
ミルはいない。
自分でメッセージを確認する。
タジールからだった。
──タジールだ。先日カサラクが言っていた現実世界に召喚するという件についてだ。
方法がわかった。
また集まりたい。
ドーレに夜9時でいいか?──
OK、と返信する。
メッセージじゃだめなのか。と思い未来予知を使おうとしたがやめた。
無駄使いだ。タジールは今までも何度か会ってきたが信頼に値する男だ。
それから、フィールドに出てレベルを1だけ上げ、夜九時五分前になったところでドーレ向かった。
「よっ」
ドーレの前でシルバと鉢合わせた。
軽く手を挙げて応える。
シルバと共にドーレに入ると、他の三人は既に揃っていた。
「遅いではないか」
キングが口を開く。
「やぁ」
タジールだ。
「悪い悪い、じゃ早速本題に」
「そうだな、現実世界に飛ぶ方法だ」
そう言って、空気中に写し出された画面をこちらに提示する。
そこには、何も書かれていなかった。
「あれ、どういうことだ。ちょっと待ってくれ」
タジールからしても予想外だった様で少し慌てた様子で画面を操作する。
「データが消えてる」
「おいおい、どうすんだよ」
タジールの告白に即口を出したのはやはりキングだった。
「なんで消えちゃうのよ」
「わからない」
レーリンも責める。
シルバは何かを考えているようだった。
謎のデータ破損。
「そのデータはどこで手に入れたんだ」
「友人がギースで働いていて現実世界にアバターをコンバートできる方法を独自に作り出したんだ」
「なるほどな」
「なら、またその友人に会えば……」
そう言ったのはレーリン。
「会えない」
「なんで!!」
今までになく強い口調のレーリンに全員の視線が集まる。
「捕えられたんだ、同じギース社の倉坂派の五人によってな」
「また、倉坂か」
つい、口にしてしまった。
「アオタ、また、ってことは何か前にもあったのか」
今までほとんど無言を貫いてきたシルバがここで口を開く。
「倉坂はカサラクだ」
「ッッ!」
「え、マジ」
レーリンも驚いている。
「では、こうしよう」
キング。
「なにかあるのか」
タジールの小さな、それでも微量の希望を持ったその声。
「あぁ、まずLIFEの中で死ぬ。その後死に戻りポイント、死庭の前に着く場所があるだろ、あそこに五人で集まる。確かそこにAIがいたはずだ。そいつにキングの服従を掛ける。AIが現実に出現したんだ、LIFEにはその機能があるってことだ、その作業を全てここのAIにやらせるこういうことだろ」
俺の考えだ。
「おぉ、さらにお前の未来予知を使い成功するかを確かめようとも思ったがその心配はなかったようだ」
「あぁ、これは成功する」
「ふっ。役に立つではないか」
なぜ、こいつはこうも上からなんだ。
「じゃ死ぬ場所を探すか」
「その必要はないわ、ここの近くに高い崖があるわ」
「ならそこから降りて俺のアクセルで完全に死ねるようにする」
「決定だな」
意見がまとまった。
この場をまとめたのはある意味キングの技量だ。
こいつにはそういった力が備わっている。
「よし、行こう」