未来
「どうしたことか」
年長の男が口を開く。
現在は前回現実に送り込まれなかった30人による緊急会議が開かれていた。
「まさか、一日で30人が全滅するとは」
全滅。そう、先陣を切った30人の勇敢なプレイヤーは全員死んだ。それは、ゲームで死んだ、なんていう甘いことではない。現実世界からもその存在を抹消された。リアルな死がそこにあった。
「まさか…なのかな?君はどう思う、アオタくん」
俺の名が呼ばれ、一瞬思考が滞り固まった俺に声の主カサラク、倉坂はさらに続けた。
「君の能力ならばこの展開は予想できたのではないかな」
「……」
無言の俺をよそに各プレイヤーが騒ぎ始める。
「アオタの能力、「未来予知」か、それなら予想できていたかもしれない」
「いや、待て。確か予知には限界があってとても一日先の未来なんて予知できないんじゃないか」
「俺もそう思う」
各々のプレイヤーから様々な意見が飛び交う。
やがて、討論は収まり視線はアオタへと向けられた。
カサラクはというと、なにやら笑っているようだった。
「あぁ、そうだ。俺はこの未来を予知していた」
「…っ!」
「おい、それって奴らを見殺しにしたってことかよ」
「あんまりだぜ、アオタさんよう」
その後もたんまり罵倒された俺はまた口を開く。
「すまない」
短く、そして意志のないその言葉は場を荒らすのには十分すぎるほどだった。
「待て、限界があるっていうのはデマだったのか」
まぁそうなるよな。
「俺の能力にはまだ公表されていないオリジナルスキルが存在する、「アブソリュートタイム」だ、俺はこのゲームに入って「未来予知」を手に入れた時、能力説明欄の一番下に120と書いてある事を発見した。そして、レベルが100に達した時だ、スキル欄にこいつが現れた。試しに使ったら120ってのは時間を表していていることがわかった」
俺の能力説明欄をプレイヤー達に見せる。
「90」
どこからともなく呟かれたその数字。
「そう。俺は現在90時間先の未来を見ることができる」
場は静まり返る。
飲んでいた酒をグラスごと床に落とす音。
これが、俺の告白後最初に聞こえた音だった。
無音の時が解かれたことにより、皆は徐々に口を開き始める。
「なんだよ、それ。SSランク級じゃねーかよ」
「なんで、止めなかったんだよ」
「おい、なんとか言えよ」
それぞれの思いを俺にぶつける。
「すまない」
今の俺にはこれくらいしか言えない。
「俺はこんな奴とは一緒に戦えない、じゃーな」
一人、また一人と場を後にする。
「ミル、これでよかったのか」
「はい、完璧です。すみません、憎まれ仕事を」
「いや、いいんだ、いつかは言わないことだったしな」
と、そこへカサラクがやってくる。
「いやいや、悪かったね」
そんなことを言って笑っているカサラクを俺は全く信用していない。
「いえ、俺もいつかは打ち明けようと思っていたので」
カサラクはそうかそうか、と頷いている。
「じゃあ、未来を見てもらえるかな」
そんなことを普通に言い出す。
正直、能力の無駄遣いは避けたい。
「何を見たいんだ」
気づけば、俺は敬語を辞めていた。
「君、アオタくんの未来だ」