LIFEオン
俺は直方体のNVOの上部に備わったボタンを押す。
と言っても、NVOに備わったボタンというボタンはそれだけだ。
電源ボタン。
もちろんコントローラなどは付いていない。
そして、黒い靄が発生し、靄は俺を丸く閉じ込める。完全に周りと遮断されると、やがて目前に光の画面が立ち上げられる。
画面には一人の美少女。
真っ赤な長髪を振り払い、大きな目をぱっちりと開け俺を見る少女の名は「ミル」
「おはようございます、蒼太。またLIFEですね」
そう言ったミルの声は、外見とは裏腹に意外と低めだ。
「もちろん」
そう答え、起動を待つ。
ミルは俺の専属AIだ。NVOプレイヤーには初期設定時に自分の専属AIを設定する権利が与えられる。
シンクチップと呼ばれる豆のように小さなチップを額に付け、目を閉じ、想像する。
そうして、AI達は数多のプレイヤーの想像から作り出される。
そのようにして、俺から作られたのがミルというわけだ。色んな人間たちが色んなAIを生み出す。女子高生あたりが作ったのか、クソイケメンAIや中にはニートのおっさんが作り出したであろう卑猥なものまで。
AI達はゲームを進める手伝い、ゲームについての説明など、NVO内ならほぼなんでもしてくれる。
と、準備が終わったらしい。
「なに間抜けな顔してるのですか、準備ができましたよ」
「おう、ありがとう」
早速始めようと思ったが、チャットにメッセージが入っているのに気づいた。
アオタさん。
アオタとは、俺がゲーム内で使っている名だ。
君は選ばれた。
それだけだった。どういうことだ。
差出人は…AIW。
意味が分からない。迷惑メールとして流すことにした俺はやっとLIFEを起動する。
「LIFEオン!」
目を閉じた俺の意識は徐々に遠のいて…。
「やっとこれた」
気が付けば俺が1日の半分以上を暮らすこちら側の世界にやって来ていた。