意識高い系異世界転生
僕はね、まず生まれてきたとき、「あ、これはチャンスだ」って思ったんですよ。
人生って言ったらたった一度きりじゃないですか? だけど僕には、二度目の人生が与えられた。それも生まれた時から記憶がある。これってすごく大きいなって思ったんです。
ポジティブですって? 確かにそうかもしれませんね。生まれ変わるなんて、そんなに簡単に切り替わらないものですからね。それは、仕方ないことだと思いますよ。僕だって、一度死んだって理解するのは辛かったし、受け入れることに抵抗がなかったわけじゃないです。
でも、そこで落ち込んで、止まってしまうような人間にはなりたくなかったんですよね、僕は。普通とは違うことをしたい。そう思うんなら、もう考え方を変えるしかないんですよ。
だから僕は、まずこの状況を、「チャンスだ」と思うようにしたんですね。それから、なんていうんでしょう、クリアになった感じがするんですよね。意識もそうなんですけど、この世界を見る視点が。先を見通し、この世界で僕はどうするべきか。どうしたいか。そういう先の先のビジョンが見えてくるんですね。
う~~~ん、生まれながらの考え方ではないですね(笑)。意識して、そういう考え方をするようにしているんです。いわば努力ですよ。変わろうとする努力。できていない人は、みんなこういうの、生まれ持ってのものだと思いがちなんですよね(苦笑)。
僕は実は、才能って言葉、嫌いなんですよ。それって、今までの僕の努力を、あ、僕だけじゃなくて、世の中の努力をすべて否定しているわけじゃないですか。それに、自分の可能性だって狭めている。自分でどうにかできることなのに、それをしない言い訳にしているんですね。それって、サボっているってことですよ。
成功者は、決してそんなことは言いませんよ。勇者イザーク然り、大賢者クロック然り、詩人ウェスタ―然り。彼らは努力者ですからね。もちろん、僕も努力をしている自負はありますよ。努力だけなら、彼らにだって負けませんよ(笑)。
声を大にして言ってやりたいですね。「僕は努力してきた。だからここにいるんだぞ」って、世界中の人に。あ、ここって言っても僕はまだこの時、赤ん坊でしたね(苦笑)。
話が逸れちゃいましたね、すみません(笑)。
次にチャンスが来たのは、僕が三歳の時ですね。早いですか? まあ、そう見えるかもしれませんね(苦笑)。チャンスを逃さないと言うことだけは、前世からずっと心がけてきたことですから。自分を磨いたら、あとはチャンスが来るのを待つだけですからね。
それで、三歳の頃。僕ははじめて魔法というものに出会ったんですよ。怖くなかったかって? たしかに元の世界にはなかったものでしたからね。でも、理解してしまえばなんてことはありませんよ。世を構成するロジックの一つだとわかれば、あとは元の知識にマージして、カテゴライズするだけでした。
ああ、でもそれが、この世界では少し変わって取られたみたいですね。僕の魔法アルゴリズムの解析が両親の目に留まって、それが町に広まって、ちょっとした話題になったんですよ。回復魔法の全体化についての新たな展開についてなんですけど、ご存じは……ないですね。仕方ないです。少しマニアックな方面なので(笑)。
これまでの回復魔法全体化の概念は、魔法というクラスに全体化というメソッドを引っ張り、そこから一つのファクターに対して一度にコミットをかけていたことに対し、僕の意見はループを挟んで一つ一つのファクターに順次コミットしようというやり方なんですよね。メリットとしては、全体化という余計なメソッドが必要なく、基本魔法をデフォルトのまま使えると言うことで――ああ、すみません、専門用語ばかりでしたね。要は、マクロの処理をミクロ化しようという試みなんです。
町のわりと柔軟な頭をしている方は、興味を持っていただけたみたいなんですけどね。新しいものはなかなか、受け入れてもらうのが大変です。
ま、僕は今でも、あの考え方は間違っていないと思うので。そのうち回復魔法に革命が起こるかもしれませんよ?
え? なにか計画があるのかって? それは…………内緒です(笑)
それからは、一流魔術学院に入学しました。そこに二年間通って、十七の時に辞めてフリーの冒険者になりました。え? なんでやめたかですって? う~~~ん、僕が求めているものと違ったから、ですかねえ。たしかに優秀な学院だったんですけど、少し窮屈過ぎたんですね。新しいことをやろうとしても、何でもかんでも押さえつけようとするんです。魔法体系についての矛盾について示唆しても、「これはこういうものだ」って、教師が言うんですよ?
だから、ここじゃ僕の成長にはならないと思ったんですね。もっと、実力主義の世界に行きたい、そこで、今の僕の力を試してみたい、って。
実際、フリーの冒険者になってからの方が、いろいろと学べましたね。良いことも悪いことも(笑)。
フリーの不安は、もちろんありましたよ。十七の若造で、学校も出ていないとなると、後ろ盾がないということですからね。でも、それ以上にワクワクしましたね。これから身に起こること、全部自分の責任になるんですから。僕がこれまで培ってきた人脈やスキルを含めた――人間力、って言うのかな。それを試されているんだって思いました。
冒険者の集会や、魔法使いの勉強会には、積極的に参加しましたね。フリーの冒険者は、やっぱり学院とは違いますよ。守られている、という安心感がない分、みんなベースのスキルが高いし、それを最大限活用しようと、本当に面白いことを考え出すんですよね。
おかげで、良い仲間にもたくさん会えましたよ。今のギルドも、フリー時代にダンジョン攻略イベで知り合った友人が作ったところです。ここは、なんというのかなあ。みんな飢えているんですね、向上心に。すごくハングリーなんです。
よりダンジョンの深いところへ、より天空城の高いところへ。魔王を倒したい、世界を平和にしたい、勇者になりたい……夢みたいですけどね、本気でみんな思っているんですよ。そして、それを誰も笑わない。僕は、そういうのいいなあって思うんです。
え? 僕ですか? もちろん、僕にもありますよ。夢――とは言いたくないですね。将来の目標が。
――――僕、起業したいんですよ。ま、これも通過点なんですけど(笑)。
友人のギルドも決して悪くはないんですけど、ここに居すぎると、それで満足してしまいそうなんですね。友人のギルドで三年。僕ももう二十になりますし、冒険者としても結構経験を積んだ自負があります。学院卒の同い年には誰にも負けない自信がありますよ?
だから、そろそろ次のステップを目指すべきじゃないかなって。今は、起業に向けて活動中です。
具体的には? まずは、仲間集めからですね。僕と一緒に戦ってくれる仲間です。そのために、今はたくさんの「面白い人」と会うようにしています。道化とか、そういう安直な面白さとはもちろん違いますよ。もっと、人とは少し違う、「興味深い」人たちのことです。
口コミで聞いたり、伝手を辿ったり、ちょっとでも気になる人がいたら、僕はすぐに会うようにしています。それと、最近だと集会場の掲示板。あれもいいですね。大抵はクエストの依頼や、ギルドの求人票だったりするんですけど、たまに強烈に面白い人がいるんですよ。
魔法使いなのに、魔法無効の戦士の洞窟に行くから、仲間の魔法使いを募集していたり、地下洞窟の土砂運搬の依頼を出している人に理由を聞いたら、洞窟へのショートカットのため、壁に穴を掘っていたり。それに、クエスト依頼掲示板なのに、ずっと日記を投稿している人もいたんですよ! 僕、もう痺れちゃって。頭おかしいでしょう? 誰も思いつかないじゃないですか、クエスト依頼掲示板には、クエストだけ張り出すものって思うでしょう?
すぐに、その人に会いに行きましたよ。僕が起業したいってことを伝えたら、賛同していただけましてね。それで仲間になってほしいと誘ったのですが、それは断られてしまいました(笑)。まだまだ僕の人間力も伸ばして行かないと駄目ですね。でも、応援してくれるって言っていただけただけでも、十分な成果でしたよ。
仲間は、今は少しずつ増えていますよ。友人のギルドにも、僕が起業したら一緒にやりたいって奴が何人かいます。
面白い人と会って、仲間が増えるたびに、将来のビジョンがクリアになっていく感触があるんです。僕はまだ若いですが、今の内でなければできないこともあると思うんですよね。これまでの前世、学院、フリー時代、友人ギルドと、ずっと僕は学ぶ立場でした。
でも、そろそろ僕から、発信していくべきなんじゃないか、そう思うんです。僕の感性が、僕の人間力が、世界にどれほど訴えられるのか。新しいステージで試してみたいんです。
もちろん、起業してから先もまだまだあります。起業はひとつの、僕の成長のためのステージだと思っています。
道のりは険しいですが、だからこそやりがいもあります。大変そう? いいえ、楽しみなんですよ、僕は。
覚えておいてください。近いうちに新しいギルドができるはずですよ。少しずつですが、準備は間違いなく進んでいます。はじめは身内の小さなギルドですが、必ずあの勇者イザークが所属していたような、大ギルドにしてみせますから。
あ、そろそろ時間ですね。はい、貴重なお話ありがとうございました。僕はこれから、現役巨大ギルド運営者の語る、ギルド運営術の講演会に参加しないといけないので、ここで。
ありがとうございました。連絡待ってます。あ、これ僕の名刺ですから。協力していただける気になったら、いつでもお願いします。