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女流剣士、蒼馬が斬る。  作者: 美妃
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三つ葉葵

内藤蒼馬

内藤蒼馬は、梶原二葉の屋敷で話していた。



「二葉様、この度のこと誠にありがとうございます。」



「いいえ、たまたまお雪どのとお茶会で見知っていたまでで、偶然というか運命であったのでしょうね、あの二人は、」



「その運命が上手くいきますかね、沖田さんは口下手ですから、」



「さぁー、わたくしには分かりかねます。それで蒼馬様は良いのでしょうか?」


「上手くいくことを願っています。」



「それは誠でしょうか、蒼馬様も沖田様を好いているのでしょう。」



「わたしは、男ですから、」(汗)



「大丈夫ですよ、旦那様から全て存じていますから、それに旦那様から、妹の心の支えになってくれと申しておりました。蒼馬様、」


「そのようなことを兄上様が申していましたか!」





☆☆

総司とお雪は、茶室で静寂な刻を過ごす。


茶器類の反対側に竹筒に一輪のシャクヤクが活けてあった。


そのシャクヤクを眺めていた総司はふっと思う。

お雪どのを例えるなら、シャクヤクかな?いゃ違う、牡丹であろうか。

こんな言葉を「立てばシャクヤク、座れば牡丹」思い浮かんだのでそう思ったのであろう。



お雪は、総司の前に「和三盆」(わさんぼん)の菓子を差し出す。



その「和三盆」は徳島でとれる最高の砂糖で、まったりとした独特の甘味があり、その舌触りのよさと、程よい甘味は京の人に好まれていた。



総司は、その「和三盆」を手に取り食べているだけで何も話さない。

お雪もまた茶器類の手入れをしているだけで言葉を発しない。



この場に蒼馬が居たのなら、二人のことを見てじれじれしていたのであろう。




☆☆

この二人を端から見たら変に思うのであろう。


総司とお雪は、手を止め見つめ合っていた。


意思の疎通というのであろうか、心と心で会話しているようでもある。


この空間は、二人の世界と言ったところで、周りは見えていないのであろう。

それが長いことつづいた。


その静寂をやぶったのは、お雪の一言。



「また、お茶に誘ってもよろしいでしょうか?沖田様、」



「はっはい、お雪どの…」


お雪は、沖田の言葉で着物の袖を口にあてて、くすっと笑っていた。



総司とお雪は、この約束事が守られるとお互い信じていた。


だが、ある事件が二人の仲を邪魔をすることであろうか。





☆☆

京の都は、藤の花も見頃は過ぎて、紫陽花が見頃を迎えた蒸し暑い六月のことでした。


監察方を商人や乞食に化けて都の各所を調べさせていた。


長州浪士や土州脱藩浪士が頻繁に出入りしているところを見つける。


その中でも有力な四国屋と池田屋を重点に監察方を張り込ませる。


四国屋には、偽商人御菓子屋に化けた新井忠雄が張り込む。

池田屋には、偽薬屋に化けた山崎烝が張り込みをしていた。



六月五日に浪士たちの集会があるとの情報をつかむ。

新撰組は、その日の備えに忙しく走り回っていた。




☆☆

六月五日の日没後。

祇園祭の灯が入り、祇園の雑踏にまぎれて、尊攘夷の浪士たちが四条通り周辺に集まってきている。



新撰組局長・近藤勇は、二隊に分けて討ち入ることを隊士に訃げる。



一隊、副長・土方歳三は、斉藤一、井上源三郎ら20余人を連れ四国屋十兵衛方に向かう。



二隊、局長・近藤勇は、副長助勤・沖田総司、永倉新八、原田左之助ら十名で池田屋に向かった。



そして、池田屋近くに来た近藤勇は、偽商人監察方の話しによると浪士たち20余人が集まっているとのことであった。



「ここが本命か、どうする」と近藤勇は思案している。「十人で討ち入るか、」

沖田総司に問いかける。

「総司、この十人で大丈夫か、」緊張した面持ちで言う。



「いゃ~そんなこと、わたしには分かりませんよ、」


と沖田総司は、近藤勇の顔を見て笑っていた。


近藤勇は、総司の笑い顔を見て、緊張がほぐれた。



☆☆

近藤勇は、出口も固めねばならぬ、と思い五人で討ち入ることを決めた。


近藤勇は、帯刀の柄で五人を指す。

沖田総司、永倉新八、藤堂平助、近藤周平、であった。


出口を原田左之助、谷三十郎らに固めさせる。



池田屋の中に潜入させていた山崎に勝手口を開けさせて、近藤勇ら五人が入って行く。


近藤は、亭主に

「新撰組である、御用のすじがあってあらためる。」

そう言って床にあがる。

近藤勇は、階段を駈けあがりながら帯刀(虎徹)をぬく。

沖田総司、帯刀(則宗)をぬいて階段を駈けあがり近藤のあとにつづく。


あとの三人も近藤、沖田につづき階段を駈けあがる。


山崎は、階段下で堕ちてくる者のとどめを刺す為に待機していた。


二階では、新撰組の討ち入りで騒いでいる。

浪士の一人が階段から転げ墜ちるようにしてくる。

一人二人と墜ちるてくるがほとんどが死骸同然である。山崎がとどめを刺すまでもない。




☆☆

浪士の一人が障子を開けて二階から飛び降りて出口に出る。


そこで待ち受けていた、原田佐之助に問答無用で斬り殺される。

また一人と飛び降りてくるが原田佐之助に斬り殺されていた。



池田屋の階段下で山崎は、転げ墜ちてきた浪士のとどめを刺そうとしたら、


「武士の情け、訊いてくれ、私の死骸の前で女人が泣いているようなら、これを渡してくれ、」


そう言って、浪士は生き絶えた。



山崎は、その浪士が懐から出してきた物を受け取ると、水晶の珠玉であった。

山崎は、この浪士の恋女か愛女人であろうと思い、最後の言葉が「武士の情け」心に引っかかって、その珠玉を懐に閉まった。


今は薬屋に化けているがわたしも武士であると、武士の情けは訊いてやらねばならぬ、と思ったのであろう。




☆☆

池田屋に集まっていた浪士たちは全員、近藤勇らの新撰組に斬り殺されていた。


池田屋討ち入りの知らせが会津藩邸に届く。


見廻り組目付け役・林田源之助は、早速、手傷を負った者たちの治療に医者を差し向かえた。


内藤蒼馬は、新撰組の者たちが心配でじっとして居られず、林田の制止も訊かずに池田屋に向かった。



池田屋の床で手傷を負った新撰組が医者の治療を受けていた。

内藤蒼馬は、その場に駆けつけてみると血だらけの沖田総司を見つけて、

「沖田さん、」

泣きそうな声で言う。



「わたしは大丈夫です、返り血を浴びただけですから、」


医者の診たてでは、やはり返り血を浴びただけで手傷は負っていないという。


それで蒼馬は安心する。

「無茶はしなさんな、沖田さん、お雪どのが心配しますから、」



たった五人で討ち入ったと聞いたから、内藤蒼馬はそう言ったのである。





☆☆

翌日、

池田屋の庭に莚を敷き詰めて浪士たちの死体を並べられていた。


そこで京人の面通しをする。浪士の素性を調べるのが目的であった。



浪士の死体の前で武家の娘らしい装いで一人の女人が泣き崩れていた。


山崎は、そこで女人に懐に閉まってあった水晶の珠玉を手渡す。


その女人は、山崎に何も言わずに珠玉を受け取りその場を去って行った。


その浪士は、調べによると芸州藩の家臣、白川鉉之助であった。


沖田総司の想い人、白川雪の兄でもある。



内藤蒼馬と沖田総司がそのことを知るのは数日が経ったあとだった。


芸州藩邸としていた屋敷から、お雪は実家に帰っていた。


総司とお雪は、「好いている」とお互いの気持ちを伝えられずに離ればなれになる。


総司の恋も、桜が散るように淡く儚い恋で終わる。





☆☆

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