平凡女子だけど悪役公爵令嬢やってます!
軽い気持ちでお読みください・・・
特に深い内容はないのです・・・
「うぉーっほっほっほー!私を誰だと思っているのかしら!私は公爵令嬢のティザリア・ビクトールですのよ!」
まるで悪役が如き笑い方をする女がそこに居た。
フリルがふんだんに使用されたドレスは公爵令嬢に相応しい豪華さを誇り、艶やかな黒髪を彩る髪飾りや胸元と耳に優美さを与えるジュエリーもまた格段に輝いて、彼女をより特別な存在であることを証明していた。
そう、顔以外はね!
私は切なく鏡に写る自分の姿を眺めていた。
何時見ても変わらない、この平凡な顔立ち・・・。
奥二重の目はまだしも、魅力すら感じない薄い唇、低くて目立たない鼻。完全に典型的な日本人の顔立ちである。
この中世ヨーロッパな雰囲気の国においてはブサイクにカテゴライズされてしまう顔。
ゲームの中のティザリア・ビクトールは超絶美人だったのに、どうしてこうなった!
私は異世界トリップをしたらしい。
あくまで、らしい、だ。
まだ社会人2年目の私は、いい出会いは全くなく、一人さみしく乙女ゲームをやっていた。
痛い女と言われようが構わない!
最近の乙女ゲームはなかなか作り込まれてて面白いのだ!
で、そのゲームが『数々の試練を越えて』という人気の乙女ゲームだ。
孤児のヒロインが伯爵家の養子となったところから物語は始まる。伯爵家は呪いによって子供が生まれなくなり、そのためヒロインが政略ではなく誠の愛で伴侶を見つけ、その相手と結ばれることにより呪いを解いてハッピーエンドという内容だ。
しかし、攻略相手が王子様に騎士団長、宰相、賢者、魔法使い、大司祭、隣の国の王様のように高貴な相手な為、ヒロインもどこに出しても恥ずかしくないレディとならなければ攻略できない仕様になっている。
その為、プレイしている乙女は、会話やマナーなどのパラメーターと常ににらめっこしながら、好みの男性にアプローチをすることが定番となっていた。
結構攻略の為に必要なパラメーターのレベルが高くて苦労した記憶を思い出すと、泣けてくるよまったく・・・
しかも、大変なのはそれだけじゃない。
ライバル役の公爵令嬢のいじめも待っている。
顔、地位、スタイル、マナー、頭脳の全てが最上ランクの彼女は、攻略したい相手の婚約者として登場し、婚約者という立場を守るために様々な嫌がらせをしてくる。
それを華麗にやり過ごし、最後の舞踏会で「くっ、中々やりますのね!悔しいけれど私の負けですわっ!」と言わせない限り、攻略したい男性とのハッピーエンドは迎えられないのだ。
で、話を戻すと、ゲームをやりながら寝てた私はいつの間にか『数々の試練を越えて』通称カズシレの世界にいたのだ。しかもライバル役のティザリア・ビクトールとして!
もうね、びっくりしたってレベルじゃなかった。
起きてみたら天井からシャンデリアがこんにちわ、着てる服はフリルがごてごてついた寝巻きっぽいもの、おまけに黒いドレスにエプロンをつけた麗しきメイドさん?侍女さん?が「おはようごさいます、ティザリア様」なんて言うんだもの!
で、『え、まじで?あのカズシレのティザリアになっちゃったの!?あの超絶美女に?やったー!』とか踊り出しそうなくらい嬉しい気持ちで鏡の前に立ったんですよ。
まさに絶望。
目覚める前の日本人の平らな顔がこっち見てました。
寝ぼけてるのかしらとほっぺをつねっても見知った顔がいました。
あの超絶的な美貌はどこいったー!?
そうです。スタイルも顔も私のままでした。
マナーは体が覚えていましたし、頭脳もとても良かったのですが、体と顔が平均値なのです!ある意味プラマイゼロ!
主人公のフィルエットが恐らく騎士団長様とのフラグを立てているからか、騎士団長様の婚約者となっていますが、その騎士団長様から初めてあった時に言われました。
「爵位の為に結婚はするが、君の顔は好みじゃない。だから愛人を作っても構わないよね?」
真っ直ぐに伸びた黒髪が特徴的な中世的な騎士団長様の一言は、彼が持っている国宝の剣、カンザラスのように鋭く私の胸に突き刺さりました。
黙れこのイケメン野郎!
こっちだって一緒に居たくないわ!
こんなサイテーな野郎とは絶対に結婚したくないし、爵位もくれてやりたくない!
今からでも遅くないから、お父様お母様、弟を作りましょう!後継ぎを作るのです!
という訳にもいかないので、私は仕方なくイケメン野郎に嫌われる為にフィルエットを虐める作戦を実行することにした。
その為に、とりあえず練習をしていたわけなのだが、なんだこれ!
美女じゃないとこうも決まらないものなのか!
自分で言うのもなんだが、平均値以下の顔とスタイルの私が偉そうにしても、「うっさいわよ、平凡!」という感想しか抱けない。もはや自虐ネタに走るしかないレベル。
いや、待てよ?逆にこの方が嫌われやすいんじゃ!
と言うことで、とりあえず作戦を実行に移します。
ここは王宮の庭園。
王家の象徴の真紅の薔薇がこれでもかと、艶やかに咲き誇る王国一の庭園だ。
いやー、こんな素敵な庭園で好きな人と散歩したり、花を愛でたり、お茶を飲んだりしたいわー。
薔薇には、爽やかなハーブティーと焼きたてのスコーンやクッキーが似合うんじゃないかしら?
『おや、こんなところに花びらがついてるぞ?』
愛しの君が私を見つめる。
真剣なその眼差しは私を捉えて離さない。
『あら、イヤですわ。気づきませんでしたの!とってくださる?』
彼の指がそっと触れる。
すると彼は柔らかく、そして甘やかに微笑んだ。
私はそっと目を閉じ、温かな唇が触れるのを待った。
そして二人はキスをして・・・
とんとん
「どうかなさいましたか?ビクトール嬢」
「え、どうしましたの?って、ぎゃぁぁぁああああああ!」
小さい頃から得意な妄想をうっかりしてしまった私の後ろに衝撃的な相手がいた。
カズシレの人気キャラ第2位、宰相タイト・コーエンその人である。
え、なんでここに居るの!?
いつも執務室から出てこないじゃん!
振り向いた私は驚いて後ろに後ずさる。
やばい、これはやばい。
これでも私は宰相に令嬢モード系かつ媚びを売りまくりな態度で接してたのに、猫かぶってたのがばれちゃう!
「ビクトール嬢?」
「だっ、大丈夫ですのよ!タイト様」
私が後ずさると、宰相も近づいてくる。
距離が空いていかない・・・距離を取りたいんだよ、距離を!
「いや、大丈夫そうには見えませんが・・・?何かをぶつぶつ言っていましたし。」
女性のように綺麗な顔が不思議そうな表情を浮かべる。
「え、私なにか言ってましたか?
」
「花びらがどう・・・とか」
「Noォオオオオオオオ!」
余りの恥ずかしさに座り込んで叫ぶ。
なんてことだ!あの恥ずかしい妄想のセリフを口に出していたのか!絶望した!!
「大丈夫ですか?」
ムリ!こんな恥ずかしい私に公爵令嬢とかまじムリ!
「ビクトール嬢?」
帰るっ!
もう知らない!婚約もこっちから破棄してやるんだから!
一人で生きて行くからいいもん!
「いい加減、人の話を聞きなよ」
唐突にチョップを頭に受けた。
は?誰やったの?
周りを見ようとすると、誰かの手が私の顎をむずと掴み、上にあげる。痛いよ!もっと優しく扱ってよ!ブサイクだって繊細なのよ!
強制的に顔をあげられた先には華やかで、そこらの女性よりも美しい貌がこちらを見ていた。
あらまぁ、宰相ったら肌が真っ白な上に肌理が細かいのね!なんて現実逃避したくなるくらい、とーっても素敵な笑顔ですね。まるで腹黒キャラみたいですよ?
「あの、なんでしょう?」
「ね、なんで平凡のクセに俺を無視するの?」
「え」
「平凡だって言葉くらいわかるよね?」
「え、あっ、そうですね?」
「いつもと違うね。それが本性?」
「え、本性?えーと、えーと」
「へーっ、平凡で高飛車で媚び売る姿がウザいって思ってたけど中々面白いね。これからたくさん遊んであげるよ。」
「い、いえ、そんな、結構です・・・」
「タイト様に遊んで頂けるなんて光栄です。はい、言ってみて。」
「タイト様に遊んで頂けるなんて光栄ですっ!」
「良く出来ました。」
宰相は私のおでこにキスを一つ落とし、去って行った。
な、なんだったのこの茶番みたいな出来事は・・・
って、ヒロインは?
もうヒロインいないし!
なんの為に私はここにきたのよ、もう!
こうして、私はゲームの設定からどんどんずれていくのでした・・・。
あぁ、早く婚約破棄されたーい!
恋愛というジャンルで投稿したものの、特に恋愛要素がなくてすみません・・・
気が向いたら続き書きます。
次こそ恋愛をだな・・・(フラグ