◆21◆
「とにかく今は一刻も早く、被害妄想で心が折れそうになっている大統領を救わねばならん。それには、『紙片』の行方について、ある程度筋道の通った説明が必要なのだが」
ヴァルゴはそう言って、アリッサとリーガの方に向き直り、
「君達の意見も聞きたい。まずは、この事件の出発点から。なぜヴォーンは旅先から、アリッサに懐中時計を届けさせたのか?」
「そこは、単純に考えていいんじゃないでしょうか」
リーガが、ヴァルゴの問いに応じる。
「と言うと?」
「多分、旅先のヴォーンさんは、自分に付けられた監視を、煩わしく思っていたんでしょう。そもそも、監視が付けられた原因は、ヴォーンさんが所持している『紙片』です。だから、『紙片』を入れている懐中時計を、アリッサの所へ届けさせた。そうすれば、ヴォーンさんに監視を付ける理由が無くなるからです」
「なるほど。では、その懐中時計に、肝心の『紙片』が入っていなかった理由は?」
「『紙片』の有無は、この場合さほど重要ではありません。むしろ容れ物を送ることの方に意味があります。人を介して直接届けさせれば、中身を確認する術はありませんから。郵送だと、途中で検閲することも出来るでしょうけれど」
「ああ、だから、手紙には懐中時計の事も、それを届けてくれたノルド君の事も書いてなかったんだ」
リーガの説明にアリッサが、ぽん、と手を打つ。
「手紙に書いてたら、ノルド君はここに来る途中で、懐中時計を強奪されていただろうね。ヴォーンさんの出した郵便物の検閲位は、当然やってるだろうから」
「確かに手紙は検閲されていた。この封筒には一度開封された痕跡が、わずかだが残っている」
ヴァルゴは、ちゃぶ台の上の封筒を取り上げて言う。
「結果、『紙片』はアリッサの手に渡ったと思い、大統領は自分への監視を解く。そんな風に、ヴォーンさんは考えたんじゃないでしょうか」
「で、今度は私に監視が付くのね」
アリッサが、うんざりした口調で言った。
点けっぱなしになっているテレビの画面には、自分に向けられたカメラに向かって、煩わしそうに攻撃を繰り返すネコの姿が映し出されていた。
「リーガ、大事な話をしてる時に、テレビと私を交互に見比べて、ニヤニヤするのはやめなさい」




