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「私は二十年に亘って、その『紙片』を持つ、ヴォーンに脅迫され続けて来た。表向きには、私利私欲を求めない『勇者』様が、民間救助隊の上司である私に、その栄誉を全て譲って引退した形になっているが」
フェロン大統領はそこで言葉を切り、やや怒りを込めて、
「『オロ』にとっては、そんな綺麗事では済まされない。暗殺依頼を引き受ける事を禁止された上、内戦時には情報提供と裏工作、内戦終了後は復興事業への協力を強制させられ、現在もこの国の政治の裏方としてこき使われている。ヴォーンが私に譲ったのは栄誉ではなく、ただの面倒事だ」
「大統領に立候補したのも、ヴォーンの脅迫か」
ヴァルゴが、やや憐れむ様な口調で、フェロン大統領に聞く。
「ヴォーンは、自分が大統領に担ぎ出されそうになると見るや、すぐさま私を人身御供に差し出した。『人殺し以外はどんな手を使っても構わないから、選挙に勝ってくれ。応援演説位は協力する』と言ってな」
そう言いながらフェロン大統領は、当時の状況を思い出したのか、また一段と渋い表情になった。
「『勇者』の推薦と『オロ』の工作によって、もちろん君は圧勝した。まあしかし、嫌々やったにせよ、君は歴代の中でも、最も有能な大統領の一人だと思うがね」
ヴァルゴが慰める様に言う。
「だが大統領と言う肩書は、『オロ』の首領の隠れ蓑としては最悪だ。常にその行動を人前に晒し、公務は手一杯、何もしていなくても諜報活動の対象にされてしまう」
「『オロ』にとって悪い事ばかりでは無いと思うが。使用出来る権力と情報網について言えば、民間救助隊とはケタ違いだろう」
「『オロ』にとっては『目立つこと』が致命傷だ。絵画で言えば、ひっそりと背景に紛れこんでいるのが理想だが、大統領は一番目立つ位置にいる」
「正体がバレるリスクが、倍以上に跳ね上がったと言う訳か」
「それでも大統領としては二期を務め、十四年間、何とか『オロ』を世間の目から欺いて来た。任期満了も近い。流石にヴォーンも、三期までやれとは言わなかった。しかし、その代わりに奴は妙な動きを見せ始めた。それが、今回の事件の発端だ」
フェロン大統領は、少し落ち着きを取り戻したものの、何か腑に落ちないという表情になっていく。




