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「君達がとばっちりを受けた事はともかく、ヴォーンがこの国を救ったのは、紛れもない事実だ。彼が行動しなければ、もっと多くの犠牲者が出ていた。その功を差し引いて、少しは大目に見てやって欲しい」
ヴァルゴは、アリッサを宥める様に言う。
「そういう風に言われたら、流石に何も言い返せません」
アリッサはそう言って、苦笑混じりのため息をついた。
「でも、内戦自体、もう二十年前の事なんでしょう。『オロ』との関係をきれいさっぱり清算するのに、十分過ぎる程の時間があったのでは?」
リーガが疑問を口にする。
「まだ清算する気は無いだろうな。ヴォーンは内戦後も『オロ』の首領を脅迫し、『オロ』を利用し続けている。その為の『紙片』だ」
「父がそんな大悪人だとは思いませんでした。脅迫罪って、脅迫相手が悪者でも適用されますよね。今すぐ通報した方がいいんでしょうか?」
アリッサが、実の父を何のためらいもなく警察に引き渡そうとする提案に対し、ヴァルゴは静かに首を振り、
「この国の治安を考えれば、通報はやめておいた方がいい。何しろ、脅迫したと言っても、『オロ』に暗殺稼業をやめる様、脅迫したのだから」
「では、『オロ』はもう暗殺はしていないのですか?」
リーガが、意外そうな面持ちで聞く。
「内戦が収束した後、ヴォーンは『オロ』の首領に、二つの事を要求した。一つは、暗殺の依頼を引き受けるのをやめる事」
「もう一つは?」
「この国の復興に力を尽くす事。要するに、ヴォーンは『オロ』に後始末を押し付けたのだ。自分が面倒事から逃げる為に」
「父ならやりかねません。いや、父なら絶対やるでしょうね。そういう人間です」
アリッサはそう言って、我が意を得たりとばかりに深く頷く。
「そして、『オロ』がその組織力を使って、内戦後も裏から復興に全力を注いだ結果、わずかな期間で、この国は正常な状態を取り戻すに至った」
「地味に父よりすごい功績ですね、それ。何もしなくなった父が、世間から『勇者』と持て囃されている一方で、その父に脅迫されて復興に尽くした『オロ』の人達は、表社会に出るに出られず、誰からも認められない。世の中不公平に出来てます、本当に」
「いや、実の所、『オロ』の首領は、その功績に見合っただけの社会的地位を得てはいる」
「そうなんですか。世の中捨てたものじゃありませんね」
「すると、ダミー会社を興して、そこの役員に納まってたりしてるんですか?」
リーガの問いに、ヴァルゴは微かに笑みを漏らし、
「復興の功績に見合った役職にしては小さいな、それでは」
「と言っても、それだけの功績に完全に見合う役職となると、見当も付きませんが」
「大統領だ」
「え?」
「え?」
同時に驚きの声を漏らす二人を前に、ヴァルゴは茶を啜り、少し間を置いて、
「『オロ』の首領の名前は、ミディ・フェロン。現在、この国の最高権力者だ。私が今日ここに来たのも、彼の依頼を受けて、彼の名前が書かれた『紙片』を回収する為だった」
アリッサとリーガは思わず顔を見合わせた。




