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「結果的に、君達にとっては災難となってしまったかもしれないが、まさにその『余計なこと』が、この国の内戦を収束させる鍵となったのだ」
ヴァルゴは、そう言って茶を啜った。
「ヴォーンさんが、『オロの指令書』の署名部分を破り取ったことに、どの様な意味が?」
「脅迫さ」
「脅迫? 父がですか? あの面倒くさがりが?」
面倒くさがりのアリッサが、思わず声を上げた。
「脅迫って、結構神経を使う行為ですよね。気を抜けば、脅迫相手に逆襲される危険もありますし」
同じく面倒くさがりのリーガもそう言って、少し不可解そうな顔をする。
「面倒くさがりが、自分から面倒な事をする理由はただ一つ、それはより面倒な事から逃げる為だ」
ヴァルゴの言葉に妙に納得させられ、二人の面倒くさがりは揃って頷いた。
「ヴォーンは、その破り取った『紙片』を使って、直接『オロ』の首領を脅迫した。『自分に協力しろ、さもなければお前の正体を世間に公表する』、と言う具合にな」
「ヴォーンさんは、暗殺のプロ集団に何の協力を求めたんです?」
「暗殺のプロと言っても、ただ殺せば良いと言うものではない。標的に関する情報収集、それを元にした綿密な計画、周到な準備、緊密な連携、状況の変化に素早く対処出来る指揮系統。そう言った高度な組織力が、どうしても不可欠になる。
「ヴォーンはそこに目を付けた。『暗殺のプロ集団を上手く使えば、自分のやろうとしている事が楽になるのではないか』と考え、事実その通りになったのだ」
「では、内戦を収束させたヴォーンさんの功績は」
そう言うリーガに、ヴァルゴは軽く頷き、
「そう、暗殺のプロ集団『オロ』のバックアップを得て、成し遂げられたものだ」
アリッサは、つい一昨日、自分もマントノン家のバックアップを得て、一仕事成し遂げた事を思い出し、妙な気分になった。
父娘って、変な所で似るのかも。何か嫌。




