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ヴァルゴは説明を続ける。
「それまで架空の存在と思われていた『オロ』だが、その実在を匂わせる唯一の物件が、内戦の最中に偶然ヴォーンによって発見された。それが『オロの指令書』だ」
「父が?」
余計なことを、と言いかけて、アリッサは言葉を呑み込んだ。
「その経緯はこうだ。内戦の初期、市役所ビルに立てこもる旧政府派の兵を、反政府派が攻撃し、多大な犠牲者が出た。その時、現場で救助活動に当たっていたヴォーンが、ある一枚の紙を見つけた。
「そこには、戦闘の混乱に乗じ、旧政府派のある将軍を暗殺する為の指示が具体的に書かれており、事実、その将軍は、そこに書かれている通りに射殺されていた。
「しかし状況が状況な為、戦闘の流れ弾に当たって死んだと見る方が自然であり、指令書についてはそれ以上の追及はされなかった。
「さて、その指令書だが、タイプライターで書かれた文面の最後、自筆署名がなされていたと思われる部分だけが、きれいに破かれており、その状態で今も警察に保管されている。
「しかし実際は、その破かれた紙片の方も現存していたのだ」
「それが例の『紙片』ですか」
リーガが口を挟む。
「そう、ヴォーンは『オロの指令書』を警察に提出する前に、その自筆署名部分を破り取り、自分の懐中時計の中に隠し持っていた。先日、アリッサに譲渡された時計がそれだ。
「君達が狙われたのは、その署名者、つまり『オロ』の首領が、自分の正体を闇に葬る為だったのだ」
「要するに、父が余計なことをしたから、私達が命を狙われたんですね」
アリッサは、ヴァルゴの長い説明を簡潔にまとめることに成功した。




