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「いいだろう、早速取りかかろう」
フェロン大統領から、『紙片』にまつわる話を聞き終えたヴァルゴは、静かにそう言った。
「頼む。必要な物があれば用意する」
「いや、結構。自分で手配する。ただ、一つ約束してくれ」
「何だ」
「明日の夕方までに、私は必ずこの仕事の成否を報告する。その報告は君自身が受けること。それは絶対に守ってもらいたい」
「無論、そのつもりだ。君の報告は私が直に受ける。それでいいか?」
そう言うフェロン大統領の顔を、ヴァルゴは探る様な目付きで見て、
「念の為に保険をかけさせてもらう。さっきの秘書を、ここへ呼んでくれないか」
「分かった」
フェロン大統領は机の上の電話で秘書を呼んだ。
「お呼びでしょうか、大統領閣下」
すぐに、クララが執務室に現われる。
「君に、この男が何か話があるそうだ」
「何でしょう」
クララはヴァルゴの方に向き直った。
「私は大統領の長年来の友人なんだが、彼はどうも手に負えない所がある」
「むしろ、手に負えない所の方が多い位です」
「人の話を聞いているようで、まるで聞いていないことが、多々ある」
「まったくです」
「時々、妙に頑固になる」
「よく困らされます」
「秘密主義だ」
「報告・連絡・相談を、ないがしろにしがちです」
「たまに、本当のことに混ぜて、しれっと嘘をつくことがある」
「常習的な嘘つきよりタチが悪いですね」
「二人共、聞こえるように人の悪口を言って、意気投合するのはやめてくれないか。何ともいたたまれない気持ちになって来た」
たまりかねて、フェロン大統領が口を挟む。
ヴァルゴは、そちらの方に顔を向けようともせずに、
「ふむ、ミディ、この人は、君のことを良く理解しているぞ」
「ああ、理解と引き換えに、上司を敬う心を失った様だが」
フェロン大統領が、少し苦々しげに言う。
「それはさておき、君。一つ頼みたいことがあるんだが」
「何でしょうか」
「すまないが、明日の夕方頃まで、この男が何かおかしな真似をしない様に、良く見張っていて欲しい」
「了解しました。と言うより、大統領がおかしな真似をしない様に見張っているのが私の役目です。もう慣れてますから」
「それは心強い。では、よろしく頼む」
ヴァルゴはそう言って、執務室から出て行った。
「これから、何かおかしな真似をするご予定がおありなんですか、大統領閣下?」
クララが真面目くさった顔で言う。
「あいにくと他の仕事で手一杯でね。そこまでする余裕は無い」
大統領も負けじと、真面目くさった顔で言い返した。




