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かなり遅めになった夕飯の後片付けを二人で済ませ、居間に戻って一息ついてから、
「思えば、この時計が来てから、色々とおかしくなったような気がする」
アリッサは、懐中時計をちゃぶ台の上に置いて言った。
「ヴォーンさんが愛用していた時計だね」
リーガはそれを手に取り、蓋を開けて文字盤を見た。
「突然、一方的に旅先から送り付けて来たの。父は一体なぜこんなことをしたと思う?」
「普通に考えれば、単に要らなくなったから、娘に譲ったんだろう」
「わざわざ、人に頼んで道場まで届けさせる? 郵送すればいいじゃない」
「遣いのついでに、娘の様子を見て来て欲しかったとか」
「本人が直々に来ればいいでしょう」
「ヴォーンさんが、そんな面倒なことをすると思うかい?」
「つまり父は、不要品を処分したい、娘の様子も気になる、でも自分で動くのは嫌。だからこうしたと言うこと?」
「確かにそれだと、面倒事を省こうとして、却って回りくどくなってるね。何かすっきりしない」
リーガは蓋を閉じて、懐中時計をちゃぶ台に戻す。
「つまり、いつものあれね」
アリッサはリーガとちゃぶ台ごしに顔を見合わせた。
「ああ、僕らに分かるのはただ一つ、ヴォーンさんは何か面倒事を回避する為に、これをやったってこと」
「そして私はまた、面倒事を押し付けられてしまった訳よ」
「大変だね、アリッサも」
「爽やかな笑顔で言うんじゃない」
ちゃぶ台を相手側に引っくり返そうと端に両手をかけるアリッサと、それを阻止すべく上面を片手で押さえつけるリーガ。
懐中時計がちゃぶ台の上でカタカタと音を立てて揺れている。




