◆7◆
「今度、僕ね」
「その次、俺」
「その次、あたし」
「その次は僕だからね」
ノルドは子供達の人気者になっていた。正確には、子供達のいいオモチャになっていた。子供達全員と勝負して、その全員に負けるという不名誉な結果が最後に残った。
「はい、今日の稽古はおしまいです。みんな、ノルドお兄さんにお礼を言いましょう」
「ありがとうございましたー!」
元気な子供たちの声が稽古場に響く。
「こちらこそ、ありがとうございました」
心が折れそうになりながらも、ノルドは笑顔をつくってそれに応えた。
「気をつけて帰るのよ」
「先生、さようなら」
「はい、さようなら、また明日ね」
わらわらと子供たちが道場から去って行く。アリッサはそれを見送ってから、ノルドに向き直り、
「疲れたでしょう。子供の相手って、結構パワーを消耗するから」
「ええ、正直自分が情けないです。ヴォーンさんに挑戦する資格なんか、最初から無かったんですね」
そう言って、ノルドはうつろに笑った。
「ヴォーンは、誰からの挑戦も受けない。そういう男だ」
道場から遅れて出て来たレットが、ノルドに声をかける。
「あら、レットさん、もう帰るの? ノルド君に父のことを聞かなくていいの?」
「まだ、仕事が少し残っている。まあ、奴の事なら心配は無かろう」
「ゲルンさんによろしくね」
「うるさい」
レットは、のっしのっしと去って行った。
「これで大体、ウチの道場の方針が分かってもらえたかしら?」
まだ放心状態が続いているノルドに、アリッサが聞いた。
「攻撃よりも防御に主体を置いているんですね」
「ちょっと違うわね。一番重視してるのは『逃げ足』」
「逃げ足、ですか」
「子供が身を守るのに必要なことを考えたら、これが一番。下手な生兵法より、とにかく逃げろと教えてるの」
「こうして実際に体験してみると、かなり有効なやり方だと思います」
「稽古場だとまあ、慣れれば捕まえられるようになるけれど、これが屋外なら、普通の大人にあの子達は捕まえられないでしょうね」
「あれで攻撃を覚えたら、僕程度の人間は簡単に倒されてしまうかもしれません」
「攻撃を教えるつもりは無いけれどね。もし武術を本格的にやりたかったら、よそのいい道場に行きなさいと言ってあるし」
「ここの門下生は本格的にやる人はいないのですか」
「いません」
アリッサは笑顔で断言した。