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「ただいま」
道場を出てから五時間後、ようやくアリッサが帰って来た。
「おかえり。明日は祝賀会だったろう?」
居間ではリーガが、ちゃぶ台の前に座り、テレビを見ながら呑気に茶を啜っている。
「ん、あんたの言った通りだったわ。一回戦で負けたってのに、優勝でもしたような盛り上がりよ」
アリッサも、台所から自分の湯呑茶碗を持って来て、リーガの向かい側に座り、自分で茶を淹れた。
「その大会は、プランチャ・バジャが優勝してたよ。アリッサが一回戦で当たった子」
「あー、やっぱり。あの子、本当に強かったからね」
「その決勝戦の途中に、ニュース速報が入ってた。旧政府派の残党が、夕べの事件の犯行声明を出したって。全文はネットで見れるよ」
「何て言ってた?」
「アリッサが本格的に中央で政治活動を始めたら、今度は本当に殺すって」
「誰がそんな面倒くさい事するかっての。で、リーガの事は?」
「僕の事については、一言も触れてない」
「殺人予告より、そっちの方が腹が立つわ」
そう言って睨むアリッサに、リーガは爽やかな笑顔で、
「文句は犯行声明文を書いた人に言うんだね。それと、気になったことが一つ。例の紙切れ云々について、何も触れてないんだ」
「そうなの? 犯人側にしてみれば、一番欲しがってた物でしょうに」
「シェルシェさんも記者会見では、あの紙切れの一件を伏せていたね。でも、犯人側が声明文であえて触れなかったとなると、また意味が違って来る」
「ええと、つまり、その紙切れは、私を殺してでも手に入れたいけれど、その存在を公表することが出来ない物、ってこと?」
「よほど、旧政府派の残党にとって都合の悪い物なんだろうね」
「しかもそれは、手に収まる小さな紙切れ。一体何なのか、まったく想像もつかないわ。リーガはどう思う?」
「思春期の頃に書いてたポエムの切れっぱしとか?」
「そんな物の為に殺されかけたのか私は」
アリッサは、ため息をついて茶を啜った。




