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地元の警察署で一通りの事情聴取が終わり、アリッサ達が解放されたのは、深夜一時頃のことだった。
正面玄関を出ると、一行は待ち構えていた大勢の記者達に囲まれた。
「アリッサさん、一言お願いします」
「犯人を単独で捕獲されたそうですが」
「銃を持つ賊を相手に、素手で戦ったとか」
「マントノン家とはどのようなご関係で?」
「シェルシェさん、事件の経緯について説明して頂けませんか?」
その中心で、シェルシェはアリッサの方に身を寄せて、微笑みながら、
「申し訳ありません、まだ不明な点が多いので、この場では事件に関するコメントは差し控えさせて頂きます。ですが、アリッサさんは私にとって大切な友人であり、彼女を狙った犯人グループには、強い憤りを感じています。もっとも、彼らはすでに、アリッサさんからそれ相応の制裁を受けてはいますが。詳細については、別途会見の場を設けますので、今はこれで失礼します」
多くのフラッシュが焚かれる中、一行は記者の群れをかき分けて、待機していたマントノン家の自家用車に乗り込んだ。
「ふふふ、アリッサさんとのツーショット写真が流れれば、マントノン家にとってこれ以上の宣伝はありません」
車の中で、シェルシェはくすくすと笑う。
「シェルシェさんだけの方が絵になると思いますけどね。そのままブロマイド屋で売れそうです」
アリッサが、シェルシェの端正な顔立ちを見ながら言う。
つくづくこの人は美人だと思う。天はニ物も三物も与えることもあるのだと。
「ふふふ、まあ見ていてください。少しアリッサさんのお名前はお借りしますが、今後のアリッサさんの生活を乱すことがないように配慮します。と言う訳で、ものは相談ですが」
「何でしょう」
「明日、いえ、もう今日ですが、ホテルの大広間を借りて、記者会見を開く予定なんですが、そこに同席してもらえませんか? 記者にしつこく追いかけまわされるのは嫌でしょう。だからまとめて一度に終わらせたいのです」
「はあ、その一回で済むなら」
「では、もう遅いことですし、今晩はそのホテルに泊っていってください。部屋は手配済みで、荷物も送り届けてあります」
シェルシェの手際の良さが、いつもにも増して神懸かっていた夜だった。




