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マントノン家が手配した、特別列車が到着する予定の、ファリト駅十一番線ホーム。
そのホームの中程に、黒っぽいコートに身を包んだ、やたら体格の良い七人の大男が、周囲に殺気を放ちながら、身を寄せ合って立っていた。
正確に言うと、その内の一人は、集団の後方、少し離れた位置で見張りをしていたので、一人と六人とに分かれる格好になっている。
遠目には、極寒の地のペンギンが、立ったまま身を寄せ合って、寒さに耐える姿に似ていないでもなかったが、近くで見ると、そんな可愛い光景とは縁遠いにも程があった。
大男達の表情はいずれも険しく、これ以上ない位、分かり易い悪人面をしていた。
殺人事件の指名手配犯でも、ここまで人相の悪いのは珍しい。
顔が「今までたくさん殺してます」と語っていた。
これが利用客の多い昼間ならば、一般客は近付くのをためらい、そこだけぽっかりと隔離された空間が出来てしまうことだろう。
今は夜中で、その番線が通過待ち合わせにしか使われない時間帯であった為、隔離されるまでもなく、ホームにいるのはその大男達だけだった。
しかし、そんな乗客の来ない筈のホームに、北の階段から、二人の若い男女が上って来た。
見張りの大男は、二人の方を気に留めないようなフリをしつつ、横目で素早く観察する。
警察や軍の関係者なら、その挙動に何かしらの油断の無さが表れるものだが、この二人は隙だらけだ。その和やかな表情には、殺気のかけらも感じられない。
自分達とは違い、平和な世界に暮らす、ごく普通のカップルであることは明白だ。
大方、北口から南口へ移動するところだろう。
列車の到着まで、まだ五分ある。このカップルが南の階段から姿を消すには、十分な時間だ。
やがてカップルは、大男達の立っている場所までやって来た。男の方が前に出ていて、女の方は少し遅れ気味である。
男は右手に小さい缶ジュースを二つ持っていた。一つは自分の分、もう一つは女の分だろう。
見張りの大男の前を通り過ぎた時、男は振り向いて、女に缶ジュースの一つを手渡した。
違う、良く見ると缶ジュースではない。缶と缶が青くて細長い布で繋がっている。
何だあれは。
ああ、そうだ、見たことがある。ホームへの入場制限を行う時、二本のポールを立てて、その間にベルトを張ることがあるが、そのポールの先端部、ベルトを固定・巻取収納する部分だ。
ちょうど缶ジュース位の大きさの円筒なので、見間違えていたのだ。
カップルはそれぞれ円筒を持つ手をくるりと回し、手にベルトを巻きつけて、男は前方、女は後方に素早く移動する。
二メートル程の長さのベルトが、列車の到着を待つ大男達の背後で、腰の高さに水平に、ピン、と直線に張られる。
次の瞬間、彼らは、大男達の両側から、線路に向かって勢い良く飛び込んでいた。
当然、ベルトは大男達の腰に引っ掛かり、バランスを崩した六人は、将棋倒しになって一緒に線路に落ちて行った。
見張りの大男が、しまった、と思った時、すでにホームの下は、二人の鬼が支配する地獄と化していた。




