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「落ち着いてください、車掌さん。まだ質問は終わってません」
焦点が定まらない目で宙を見つめ、ただ虚ろに笑い続ける車掌を、アリッサは肩をつかんで軽く揺さぶった。
「次の停車駅で全員殺されるって、どういうことなのか、説明してください、車掌さん」
アリッサの話を聞こうともせず、車掌は笑い続ける。
「落ち着け」
アリッサは車掌の顔面を、がしっと、右手でつかんで力を加えた。
リーガもそうだが、アリッサも握力は左右共に百キロ以上あり、素手でリンゴジュースが作れる。
「痛っ、いたたたたた!」
一日の内に別々の二人から怪力で顔面をつかまれるという、珍しい体験をした車掌は、激痛の余り悲鳴を上げた。
「次の停車駅で殺されるって、どういうことなのか説明しなさい」
「せ、せつめいしまっ、だから、は、離して!」
ようやくアリッサの魔の手から解放されると、車掌は少し落ち着きを取り戻した様子で、
「言えません。言えば殺されます」
実はまだ少し錯乱していた。
アリッサは、少しいらつきそうになる心を抑えて、
「あのね、車掌さん。言っても言わなくても、次の停車駅で殺されるんでしょう。同じことなんだから、早く言っちゃってください」
「あっ、そう、そうでした」
今度こそ本当に車掌は落ち着きを取り戻して、事情の説明を始めた。
「この列車はファリト駅で、後から来る特急の通過待ち合わせの為、一旦、十一番線のプラットホームに停車します。そこに、紙切れを受け取る役目の男達が待っているんです。私がその紙切れを渡せば、そのまま彼らは帰還します。皆さんには何の危害も加えません」
「その人達に、紙切れを渡せなかったら、どうなるの?」
アリッサが尋ねる。
「もし、渡せなかった場合、彼らはこの特別列車の乗客を全員射殺して、アリッサさんの荷物を回収する手筈になっています。もちろん、私も一緒に殺されます」
言い終えると、車掌はまた恐怖がよみがえったのか、頭を抱えてがたがたと震えだした。




