◆6◆
リーガはトイレの後、ラウンジに戻らずに、寝台個室のある車両までやって来た。
狭い通路を歩いていると、三十歳位の真面目そうな車掌が、アリッサ用の個室のドアを開けている所へ、ばったり出くわした。
「車掌さん、その部屋の客は今ラウンジにいますよ」
リーガが車掌に声をかけた。
リーガに気付いた車掌は、一瞬ぎょっとした表情になったが、すぐに愛想の良い顔になり、
「ああ、びっくりしました。全く人の近付く気配がしなかったもので。大変失礼しました」
「貸し切りの特別列車でも、切符を確認するんですか?」
「いえいえ、これはただのご挨拶のようなものです。本日は当列車にご乗車頂き、まことにありがとうございます。何かご要望がございましたら、お気軽にお申し付けください」
「では、一つ質問していいですか?」
「はい、何でしょう?」
車掌が丁寧な物腰でリーガに応答する。
リーガは車掌の制服の胸のあたりを指差し、いつもの爽やかな口調で、
「その大きな拳銃は何に使うんです?」
車掌は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に戻り、
「いや、服の上から良く分かりましたね。護身用です。使うことはないでしょうが」
「見せてもらえますか」
「すみませんが、お断りします。そういう規則なので」
「そんな規則はありませんよ。この平和なご時世に、武器を持った車掌さんなんて見たことありません」
車掌は何か言おうとしたが、急に厳しい顔つきになり、懐から長いサプレッサーの付いた拳銃を取り出して、銃口をリーガに向けた。
「手を上げて、向こうを向いてもらえますか」
銃口を向けられて、リーガは言われた通り、おとなしく車掌に背を向けた。
そして次の瞬間、リーガは相手に背を向けたまま、左手は車掌の顔面をがっちりとつかみ、右手は車掌の右手首を不自然な角度で捩じり上げていた。
車掌は、突然視界が遮られた上に、顔と手に激痛が走り、何が起こったのか分からないまま、拳銃を床に落とした。
「あなたが何者なのか、目的は何か、なんてことは聞きません」
そう言いながら、リーガは手を離して車掌の方に向き直り、拳銃を拾い上げた。列車の窓を少し開けて、隙間から、ぽい、とそれを外に投げ捨てる。
「余計な事はせず、最後まで普通の車掌さんでいてください。そうすれば、何も無かったことにしておきます。面倒事は嫌いなので」
リーガは窓を閉めると、そのまま何事も無かったように引き返して行った。
車掌は信じられないものを見たような表情で、痛む右手首をさすりながら、そのままその場に立ちつくしていた。




