◆5◆
「いえ、行く先々で、様々な武術を見学していることは確かなようです。色々とお話を聞かせてもらいました」
ノルドがあわててフォローを入れた。それでもアリッサは首を振り、
「見学だけだったら、誰だって出来ますからね。もっとも、今は平和な時代。いきなり、『いざ尋常に勝負』、なんてことにはならないでしょうけど」
「道場破りなんかやったら、逮捕されますからね。僕も少々武術をやっているので、ヴォーンさんに一手ご指南を、とお願いしたのですが」
「断られたでしょう」
「はい。道場の外では試合はしない、とのことで」
「道場の内でも断るわよ。面倒くさがりだから」
「面倒くさがり、ですか。じゃあ、その後でヴォーンさんに『まず娘と勝負してみなさい』と言われたんですが、それも」
「面倒くさがってこっちに押し付けたか。まあ、私と試合したところで、何の参考にもならないと思うけれど」
「ヴォーンさんの話では、アリッサさんも相当の実力者とお聞きしましたが」
「それ大ウソ。自分が面倒に巻き込まれたくない一心で言った、その場逃れよ」
「そうだったんですか?」
「父は、面倒事から逃げる為ならどんなことでもやるわ。でも、せっかくそういうことで来たのに、何も無しじゃ悪いわね」
「いえ。時計もお渡ししましたし、僕はこれで帰ります」
「ウチの門下生達と立ち合ってみる?」
「あの子供達とですか? それは流石に……」
「まあ、見れば分かるわ、いらっしゃい」
アリッサは立ち上がって、ノルドを稽古場まで案内した。