◆5◆
「失礼、ちょっと席を外します」
今までほとんど会話に加わらなかったリーガが、そう言ってゆっくりと立ち上がる。
「どうしたの?」
アリッサが尋ねる。
「トイレ、君も来る?」
「一人でどうぞ」
そんなアリッサとリーガのやりとりを見て、シェルシェが少し笑った。
「本当に、お二人は長年連れ添った夫婦のようですね」
「連れ添ってません。付き合いが長いことだけは確かですけど」
アリッサは口をへの字に曲げた。
「倦怠期ですかね」
リーガが爽やかな口調で言う。
「うるさいわね、さっさと行きなさい」
リーガはアリッサに追い立てられるように、ラウンジを出て行った。
「ふふふ、リーガさんがアリッサさんの婚約者だと知っていれば、もう少し広くて見晴らしの良い、二人用個室を用意しましたのに」
「いえ、もう十分広い個室を用意して頂きましたから。三人位寝れるでしょう、あの広さだと」
「でしたら、お二人とも同じ個室で寝られても構いませんよ?」
シェルシェが、いたずらっぽい微笑を浮かべて言う。
「いえ、せっかくあんな広くて豪華な部屋を独り占めできるのに、アレと一緒なんてもったいないです」
アリッサは、きっぱりと言い切った。
「ふふ、からかいがいのない人ですね、アリッサさんは」
「これぐらいで動揺してたら、村のおばちゃん達を相手にやっていけませんよ。ある意味、あの人達は政財界の大物よりも手強いかもしれません」
「そうかもしれませんね」
シェルシェは、くすくすと笑った。




