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「ところで、シェルシェさんが言っていた、『もう一つの目的』とは、一体何だったんでしょうか」
アリッサは、気を取り直してシェルシェに質問する。
「アリッサさんの護衛です」
シェルシェは、少し真面目な顔になって返答した。
「護衛?」
「『伝説』を倒して名を上げようと、不埒なことを考える輩がいないとは限りません」
シェルシェはそう言ってから、少しため息をつき、
「現に、身内がやらかしてますし。妹のパティのことですが」
「まあ、妹さんのことは、もういいですから。でも、父ならともかく、私は無名の存在ですよ。格闘大会も一回戦敗退ですし、私に勝っても何の自慢にもなりませんが」
「ふふふ。大会と言えば、その後どうなったでしょうね。ちょっと様子を見てみましょうか」
シェルシェが、手元のリモコンを操作すると、壁の一部に埋め込まれている大型液晶テレビが点いた。
「プランチャさんが順当に勝ち進んでいる様ですね。ちょうど彼女の試合が始まる所です」
画面には、試合開始の合図を待つ、プランチャ・バジャとその対戦相手が映っていた。
「相手は、フオリ・モルデノ。これも打撃系の人です。プランチャさんより、少し背が高くて体格もいいですね。いい試合になりそうです」
試合開始のブザーと共に、両者は中央に進み出た。軽い足取りでプランチャはフオリの周囲を回り、フオリはプランチャの動きを追って向きを変えながら、時折相手の懐に飛び込んで、軽い突きを繰り出している。
と、プランチャの動きが止まり、二人は接近した状態のまま、激しく互いの体を打ち始めた。
両者ともその場をほとんど動かず、拳による近距離の打ち合いだけが延々と続く。
「お互いに一歩も退きません。まさに意地の張り合いです。首から上を打てないのが、もどかしいでしょうね。アリッサさん、どちらが勝つと思います?」
シェルシェが聞いた。
「正直分かりません。ただ、私なら、ああなる前に逃げます。すごく痛そうです」
アリッサは打撃の痛さを想像しながら、少し顔をしかめて答える。
「私には、プランチャさんが優勢に見えます」
突然フオリの動きが止まり、そのままがくりと両膝を地に着けた。続いて両肘、さらには体全体がひしゃげるように倒れる。
審判がプランチャの勝利を告げ、試合は終了した。
「もう立てませんね。プランチャさんは、有利な態勢を捨ててまで打ち合いに持ち込んでましたから、勝てると確信していたのでしょう」
シェルシェが微笑む。
「私は逃げ続けていて正解でした。ほら、相手の選手が担架で運ばれてます。下手すれば、私もああなってました」
アリッサはうんざりした様に言った。




