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特別列車の最後尾は、一両まるごとラウンジとなっており、展望用の大きな窓を持ち、ゆったりとしたソファと肘掛付きの回転椅子とが、互い違いに並べられている。
ソファの一つにアリッサとリーガ、その反対側の回転椅子にシェルシェが、向かい合うように座っている。
「目的駅に到着するのは、明日の夕方の予定です。そこから先は車を手配してあります」
シェルシェはそう言って、給仕された紅茶に口を付けた。
「どうも、いたれりつくせりで恐縮します」
アリッサが、シェルシェの表情を窺いながら答える。
どうしても、この人は何か企んでいるように勘繰ってしまう。
「ふふ、そんなに警戒しないでください、アリッサさん。実を言うと、私が鉄道旅行をしたかったんですよ。当主といえども、いえ、当主だからこそ普段は、そんなわがままは許されません。ですが、『伝説』の接待となれば話は別です。役員達も接待費を快く認めてくれます」
「じゃあ、これも業務の一環ですか」
「そうなりますね。アリッサさんをダシにして遊び呆けているとも言います。こういう特別列車を使った接待は、政財界の、特にマニアの方に喜ばれるので、時々やりますけど」
「マニア?」
「ええ、本当はいけないんですが、運転室に入ってみたり、少しの間運転を代わってみたり。少年の頃、夢見たロマンを実現させるというおもてなしを」
「違法行為にも程がありませんか、それ」
「ふふふ、他にも、走行中に最後部の扉を解放して、そこから景色を直接楽しむという趣向も好評です。普通は走行中に扉は開かないようになってますが、このラウンジは特別でして」
「大丈夫ですか、この国の政財界」
アリッサの脳裏に、童心に返ってはしゃぐ政財界の大物達の姿が浮かぶ。
「アリッサさんも、列車を運転してみませんか?」
「結構です。そっちの趣味はないので」




