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「マントノン家は、アリッサの帰郷の為に特別列車を手配していたようです。これをご覧ください」
秘書のクララは、一枚の紙をフェロン大統領に手渡した。そこには、出発駅から到着駅までの簡単な路線図と、各駅ごとの通過予定時刻が書きこまれている。
「特別列車か。随分都合良く手配出来たものだな。マントノン家は、アリッサが早い段階で敗退することを、予想していたのか?」
「いえ、特別列車は日時をずらして四本分予約されていました。これはその内の一番早いものです」
「複数予約しておいて、使うのは一つだけか。マントノン家は豪儀だな」
「この特別列車には、アリッサと、マントノン家の当主シェルシェ、それにヴォーンの元門下生の若い男が一人、計三人が乗ったことが確認されています」
「上手い手を打ってくれたものだ。仮にヴォーンの娘を狙う輩がいたとしても、特別列車では、他の乗客に紛れこんで近付くことも出来ないからな」
「では、アリッサの動向を、これ以上監視する必要は?」
「無い。監視の任を解いてやってくれ。やれやれ、これで一安心と言ったところだ。父に比べれば、娘の方は手間がかからなくて助かる」
フェロン大統領は、クララから受け取った紙を上着の内ポケットにしまいこみ、特別席からの試合観戦を続けた。
「出来れば父の方も、その特別列車で一緒に連れ帰って欲しかったところだが」
「マントノン家は配送業者ではありません、大統領閣下」




