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「先日は失礼千万な振る舞いに及んでしまい、大変申し訳ありませんでした」
試合の後、稽古場を出て応接室に戻り、少し休憩して道場の外に出た一行が目にしたのは、正面玄関前で土下座する、マントノン家三姉妹の三女パティの姿だった。
「こんな所で何やってるんですか、パティさん! お願いだからやめてください!」
あわてて、アリッサはパティの手を取って立たせる。
「ふふ、妹もこのように反省しているので、先日の無礼はこれでどうか許してやってください」
シェルシェが微笑みながら言う。
ああ、マントノン家当主直々の命令か。
「妹さんにあまり辛く当たらないでください。流石に引きます」
「ふふふ、これも一応のけじめです」
「ここまでやると、けじめじゃなくていじめです。どれだけ厳しいんですか、マントノン家は」
「ふふふ、水責めにした方が良かったですか?」
「いや、その、あれは、まあ。とにかく、もうけりがついたことを、後になってから蒸し返しちゃいけません」
水責めを行った張本人のアリッサは、取り繕う様に一つ咳払いをして、
「それでは、私達はこれで失礼します。リーガはこれからどうするの?」
「たまには村へ寄るのもいいかなと思ってた」
「あら、珍しいわね。じゃ、一緒に帰る?」
「シェルシェさん直々に、村まで送ってくださるそうだよ」
アリッサが驚いてシェルシェの方を見る。シェルシェは笑って、
「ふふ、そういうことです。お詫びと言っては何ですが、帰りは送らせてもらえませんか?」
「ここから村までかなりありますよ。車で飛ばしても一泊以上は必要です」
「特別列車を用意しました。食堂車と寝台車も付いています」
「何気にすごいこと言いましたね、今」
「ふふ、自家用ヘリの方が早いのですが。道中、ゆっくりとお話がしたいですし」
「はぁ。何かもう、色々庶民とはスケールが違います」
アリッサは半ば驚き、半ば呆れた。
「パティの非礼のお詫びと、もう一つ目的があるのですが」
「目的?」
「それは列車の中で詳しくお話しましょう」
やがて正面玄関前に迎えの車が到着し、一行はそのまま駅へと向かった。




