◆19◆
「アホの子みたいな行動はやめようね、アリッサ」
リーガは爽やかな笑顔で、アリッサの差し出した防護服を押し戻す。
「誰がアホの子よ」
「君が」
「私がアホの子なら、あんたはダメな大人ね」
しばらくの間、アリッサとリーガは防護服を互いに押し付け合っていた。
そんな二人のやりとりに、毒気が抜かれたのか、シェルシェの笑みから怪しさが消え、今は面白そうに成り行きを見守っている。
その傍らで、ヴォルフ少年は真面目な顔を崩さずに控えている。
実に訓練が行き届いている。
「アリッサ、君はマントノン家三姉妹の内、すでに二人と勝負している。シェルシェさんとだけ戦わないと言うのは、不公平じゃないか?」
アリッサは、はぁ、とため息をついた。
「分かりました、シェルシェさん。真剣勝負でなく、こういうスポーツの試合形式にしたのも、こちらに気を遣って頂いてのことですね」
「ええ。私としては、真剣勝負の方が」
「いえ、スポーツでお願いします」
シェルシェの返事を最後まで言わせずに、アリッサはそそくさと防護服を身に着けた。
「試作段階の防具も一通り用意出来ますが、装備しますか?」
「いえ。このままでいいです。念のため聞きますが、攻撃していいのはこの防護服だけなんですよね?」
「ええ、それ以外は、反則負けになります」
「もし、わざと防護服以外の場所を打たせるように仕向けたら?」
「それでも打った方の反則負けです」
「分かりました」
「ふふふ、私に反則負けをさせるつもりですか?」
「そんなことはしません。その場合すごく痛そうですから」
「そのための防具なんですが。まあいいでしょう。上の稽古場に来てください。ヴォルフ、その判定機器を上まで運んで」
「はい」
ヴォルフは、判定機器を抱えて先に部屋を出た。
「アリッサさん、好きな剣を選んでください。と言っても、皆同じ金属パイプですけれど」
「じゃ、これを」
アリッサは適当に一本のパイプを選び取り、数回振ってみた。
「軽いですね」
「ええ、あくまでスポーツが目的ですから」
「でも、ヴォルフ君をものすごい勢いで突き伏せてましたね」
「どんな道具でも使いようによっては凶器です」
シェルシェは再び怪しい笑みを浮かべた。




