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「試作段階なので必要最小限の機能しかありませんが、一応試合は出来ます」
そう言ってシェルシェは、銀色に輝く厚ぼったいチョッキを取り上げ、その腰の辺りに付いている小さなスイッチを入れた。
「原理は簡単です。この防護服に金属パイプで有効な打撃を加えれば、無線で信号が送られて、その判定機器が反応します。ヴォルフ、これを着て」
「はい」
ヴォルフは防護服を慣れた手つきで身に着ける。
シェルシェは判定機器のスイッチを入れ、少しダイヤルを動かして調整した後、金属パイプを一本手に取り、
「このように、軽く触れた位では何も起こりませんが」
ヴォルフ少年の着ている防護服の肩をポンポンと叩く。判定機器は何も反応しない。
「ある程度の力を加えた打撃では」
突然、金属パイプがヴォルフ少年の肩に力強く振り下ろされ、パァン、と高い音が地下室に響く。と、同時に判定機器の青いランプが点灯した。
「二人の競技者をそれぞれ赤と青に割り振って、先に打たれた方の色のランプが点くように設定してあります。部位やタイミングによって、色々と点灯のパターンを変えられるので、試合のルールは柔軟に変えることが出来ます」
シェルシェは、もう一着別の防護服を手に取った。
「今から、ヴォルフと私とで簡単に試合をやってみましょう」
その防護服を身に着け、判定機器を少し調整した後、再びヴォルフと向かい合い、ニメートル程離れて対峙する。
「アリッサさん、『始め』と言ってもらえますか?」
「はい、では……始め!」
シェルシェの求めに応じて、アリッサが開始の合図をすると同時に、キンッ、という鋭い金属音が響き、次の瞬間にはヴォルフ少年が床に倒されていた。
シェルシェは倒れたヴォルフに覆いかぶさる様に立ち、持っている金属パイプを相手の胸元に突き立てている。
判定機器は、先程と同じく青いランプが点灯していた。
「こんな風に怪我をさせることなく、スポーツとしての剣術が楽しめます」
にっこりと笑うシェルシェに、アリッサは、
「いや、かなり危険に見えるんですが。相手を突いてそのまま床に倒すのは、いかがなものかと」
「一般向けに実装する時には、防具を追加する予定です。この防護服だけでもかなりの衝撃を吸収するので、ヴォルフへのダメージはありません」
「ヴォルフ君、大丈夫?」
アリッサの問いかけに、倒れていたヴォルフは、背中で反動をつけて跳ね起き、
「大丈夫です。何ともありません」
「良かった。流石に鍛え方が違うのね」
アリッサは防護服が置いてある机に近寄り、その内の一着を手に取った。
「防弾チョッキの原理ですね。確かに衝撃が拡散するようになってる」
「ふふふ、どうですアリッサさん、私とこれで一手、遊んでくれませんか?」
アリッサは、怪しい笑みを浮かべて誘うシェルシェとは目を合わせないようにして、
「リーガ、あんたやってみない?」
白々しい笑顔で、手にした防護服をリーガの方へ押し付けた。




