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「ふふふ、試合と言っても血なまぐさい真剣勝負ではありません。マントノン家で現在開発している、とある新スポーツのモニターになってくれませんか、と言っているのです」
そう言って、シェルシェはいたずらっぽく微笑んだ。
「新スポーツ?」
アリッサは、警戒しつつ問い返す。
「武芸が廃れていく現在、安全性を高めてスポーツ化した剣術を開発しよう、というプロジェクトがあるのですよ。各流派が集まって、案を出し合っている最中です」
「ああ、そう言えば、今回の大会も格闘術をスポーツ化する試みでしたね」
「ええ、剣術についても、いずれ統一ルールの下で大会を開く予定なのです。マントノン家で試作開発した装備があるのですが、見るだけ見てくださいませんか?」
アリッサは一瞬考えて、
「見るだけでしたら」
「では、私の後について来てください」
シェルシェとヴォルフが同時に立ち上がり部屋を出る。アリッサとリーガもそれに続く。
「念のために言っておきますが、見るだけですからね」
「ふふふ」
シェルシェはアリッサの言葉を軽く流すように笑う。
「リーガは、知ってたの? その新スポーツとやらのこと」
アリッサは、横を並んで歩くリーガに聞いた。
「大体のことは説明してもらったよ。要はタッチパネルみたいなものらしい」
「却ってイメージしづらいわね。その説明だと」
階段を地下一階まで下りると、すぐ突き当たりにドアがあった。
「ふふふ、ここから先は、ちょっとしたギャラリーです」
シェルシェはドアを開けて中の照明を点けた。
広い室内に、多数のガラスケースが並べられ、その中に、剣、槍、鎌、鉤、手裏剣、杖、その他諸々の大小様々な武器が陳列されている。
本部道場の地下にあった量産型のアイテムとは違い、それぞれの武器は、一見してそれと分かる歴史的風格を備えていた。
「地下に美術館ですか?」
アリッサは目を見張る。
「マントノン家が収集した武器コレクションの一部です。何か興味を引いた物があれば、ケースから出しますよ」
「いえ、結構です。それより、例の装備はどこに?」
「向こうの机の上です」
部屋の端にある大きな机の上に、計器と小型ランプが付いた箱型の機械と、銀色の光沢のある厚ぼったいチョッキのようなものが数着、長さ一メートル強の金属製のパイプが数本置かれていた。
それらは、この部屋に陳列されている他の武器とは対照的に、何の風格も備えていない、ただただ実用的で素っ気ない代物だった。




