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「とても興味深いお話でした。それでは、こちら側の事情もお話ししましょう」
シェルシェはそう言って、隣にかしこまって座っている少年の頭を撫でた。
「これは私達の弟で、マントノン家次期当主のヴォルフです。見ての通りまだ子供なので、成人するまでは、私が当主を務めています」
「マントノン家と言えば、剣術の名門にして最大手。その当主と言えば事実上、剣術界のトップですね」
アリッサが言う。
「その最大手でさえ、門下生の減少によって、支部道場を閉鎖したり、統合したりしなければならなくなっているのが実情です。多くのスタッフに、再就職先の世話をしなくてはならないのですが、いかんせん、武芸一筋に打ちこんで来た者達です。なかなか受け入れ先も無くて」
「分かります。ウチの道場にたむろしていた人達も、現在その大半がちゃんとした職にあり付けていません。武芸者は基本的に世渡りが下手なんです」
「私は当主として、武芸者であると同時に経営者でなくてはなりません。二人の妹の方が、武芸者としては純粋ですね。弟の教育方針についても、武芸者としての面を重視し過ぎるのが困りものですが」
「そうですか。職業柄、子供にはのびのびと育って欲しいものです」
「アリッサさんの道場なら、のびのびと育つことが出来るかも知れませんね」
シェルシェは微笑んで、意味ありげにアリッサを見る。
アリッサはあわてて手を振って、
「いやいや、ウチの道場の対象年齢は、ヴォルフ君よりもっと下です。それに、『もし武術を本格的にやりたかったら、よそのいい道場へ行ってください』と、子供とその親御さんに言ってある位、ヌルい所です。剣術について言うと、村には道場が無いので、近くの町の小さな個人道場に通う子がいるだけですね。妹さんから聞いているかとは思いますが、本当に『ど』が付く田舎ですから」




