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「僕は子供の頃、ヴォーンの道場に預けられていました。その辺の事情を説明すると長くなりますが、要は、僕の父が、息子に武芸で身を立てさせようとしたのです」
リーガは話を続けた。
「まだ子供だったアリッサと僕は、道場で暇を持て余していた大勢の武芸者から、遊び半分に、色々な流派の技を無秩序に教え込まれました。ただ、ヴォーン本人からは何も教わっていません」
「父は、娘の私にさえ稽古をつけませんでしたから。だから、私がヴォーンの技を受け継いだ、などと言うのは全くのデマです」
「そんなヴォーンですが、武芸と関係ないことには、やたらと熱心でした。道場の改造計画とか水力発電機の設計とか、門下生と一緒になって夢中になって作業をしていました」
「怠け者って、本業以外のことはやたら張り切るのよね」
「なぜ、そこで僕を凝視してるんだい、アリッサ」
「別に。ただあんたの方が、父の性格を継承しているなあって思って」
二人のやりとりに、シェルシェが微笑む。
「なるほど、事情は分かりました。お二人は、小さい頃から武芸の英才教育を受けていたのですね」
「ただし、全く系統立っていない、継ぎはぎの教育ですが」
「リーガの言う通りです。特に私の技量なんてたかが知れてます。何度か試合をやれば、色々とボロが出ますよ」
「そう、ただ小さい頃から、色々な武芸者と直に接して来たので、一通りあしらう方法を少し知っているだけです。そうこうしている内に、また数年が過ぎて、世の中が平和になるにつれ、道場にいた門下生も一人減り、二人減り、と言った具合で、父も息子の将来を思い直したんでしょう、武芸者でなく堅気にしようと、僕を故郷に連れ戻しました。今僕は、翻訳の下請けの仕事をしています」
「リーガが道場からいなくなってしばらくすると、門下生はとうとう一人もいなくなりました。母はそれより少し前に病気で亡くなっていたので、道場は父と私の二人だけです。そして一年前、父が私に道場を押し付けて、自由気ままな旅に出てしまい、私は色々と考えて、子供相手の道場をやることにしたんです」
アリッサはそこで一旦言葉を切り、強調するように、
「そんな訳で、リーガも私も武芸者とは言えないんです」




