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「意外です。まさかリーガさんが、アリッサさんにとって、ここまで重要な方だとは思ってませんでした」
シェルシェは改めて、目の前のリーガをまじまじと見た。
「小さい頃から兄貴分として、良くアリッサの面倒を見てやっていたのですが、気が付いたらこの有様です」
リーガはそう言って、やれやれと言う感じに首を振る。
アリッサはその態度に、少しむっとした様子。
「では、アリッサさんに武芸を教えたのも、リーガさんですか?」
「それは僕ではなく、当時道場にいた大人達です。暇潰しにちょうど良かったみたいで」
シェルシェは興味を示し、身を乗り出す。
「面白そうなお話ですね。もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」
「話してもいいかい? アリッサ」
「別に構わないけど、変な脚色はしないでね」
アリッサは少し警戒しつつ、リーガに許可を与えた。
「僕達が小さかった頃、ヴォーンの道場には、各地から武芸者が集まっていました。弟子入り志願者もいれば、道場破りに来る者もあり、何の目的も無くただ来ている者もいました。けれども当のヴォーンは、誰のこともほとんど相手にしませんでした」
「父は面倒くさがりでしたから。山奥の僻地に道場を開いたのも、『ここならあまり人が来ないだろう』と言う理由らしいです。本当に道場経営するつもりがあったのか、怪しいものです」
「でも、一応来る者拒まずで、希望者は皆門下生にしてました」
「それは父じゃなくて、最初の頃に来てた人達が、勝手に仕切っていたんじゃなかったっけ。父に任せると収拾がつかなくなるからって」
「そうだったかな。ともかく、当時は色々な武芸者が道場にいたんです」
「それはいつ頃のことでしょう?」
シェルシェが尋ねた。
「十年位前の、世間の『勇者』熱がまだ冷めていなかった頃がピークでした。それから後は門下生の数は年々減少していく一方になるんですが」
「マントノン家も、門下生はここ数年で随分減少しています。会議の主な議題はいつも、『どうしたら多くの門下生を獲得できるか』ですよ」
シェルシェはそう言って、少し悲しそうに、ふふ、と笑う。




