◆10◆
「経営や宣伝云々の話は置いておいて、シェルシェさん、こんな私で良ければお友達になりましょう」
アリッサは細かいことを考えるのをやめて、シェルシェの申し出を素直に受けることにした。
「ありがとうございます。今後ともよろしくお付き合いください。それから、先程のミノンとの試合ですが」
「何か?」
「稽古場に備え付けられたカメラで、試合の様子を録画していたのですが、その動画を世間に公開する許可を頂けませんか?」
「いいですけど。でも、それだと宣伝どころか、マントノン家にとって悪いイメージになってしまうんじゃないですか?」
「ヴォーンの娘に敗北したからと言って、マントノン家の名は何も傷つきません」
「そういうものですか?」
「あなたは自分の価値を分かってませんよ。『勇者ヴォーンの伝説を一身に受け継いだ格闘界の最終』」
「すみません、その称号は勘弁してください。なんだか誹謗中傷されてる気分になるので」
「あの動画を公開したら、そうですね、マントノン家の門下生は、一か月以内に少なくとも千人は増えるでしょう」
「正直良く分かりません。たとえば、まあ比べるのもおこがましいですが、もしウチの託児所に、何か悪い噂が立ったら、子供達の多くはやめちゃいますよ」
「ふふふ、一か月後に結果は出ているでしょう。許可を頂けますね?」
「ええ、構いませんが」
わざわざ自分の流派が負けた試合の動画を自分から公開することに、何の得があるのか。
「一流の経営手腕を持つ人の読みは、凡人には中々理解できないよ、アリッサ」
リーガが口を挟む。
「なるほど、あんたが言うと、ものすごく説得力があるわ」
アリッサがやり返す。
「随分と仲がよろしいこと」
シェルシェはくすくすと笑った。
「すみません、どうもこの男がいると調子が狂います。まあ、これでも婚約者なんですが」
アリッサがしれっと言う。シェルシェが、心底驚いた顔をして、
「リーガさんとは、そう言うご関係でしたか?」
「ええ、生きてるのか死んでるのか分からないような男ですが、このまま孤独死したら流石に哀れかなと思って、慈悲の心を出してやりました。もし三十歳までに結婚できなかったら、しょうがないから私が相手になってやる、と約束したんです」
「とんでもない言い草でしょう。これが伝説とやらの本性です」
アリッサとリーガは互いに相手を指差した。




