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逃げ足道場 ~私を面倒事に巻き込まないでください~  作者: 真宵 駆
◆◆第三章◆◆ 木刀と金属パイプと私

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37/104

◆6◆

「はじめっ!」


 ヴォルフの掛け声を合図に、ミノンが木刀を中段に構え、少しずつ前進して来た。

 アリッサは、ミノンが近づくのと同じ速度で、後歩きで後退する。

 二人の間合いは全く変わらない。


 不意にミノンは木刀を大きく振りかぶり、気合の声と共に、アリッサめがけて全速力で突っ込んだ。

 アリッサは、ミノンに正面を向けたまま、全く同じ速度で後退した。


 それは、相対する二人が、間合いも向きも変わらないまま直線移動しているという、奇妙な光景だった。


 ニ十メートル程後退した所で、アリッサは急ブレーキをかけたように、ぴたりと止まり、正面をミノンに向けたまま、右へすうっと滑るように移動した。


 ミノンは、その突然の動きに反応しきれず、そのまま三メートル程オーバーランし、二、三歩つんのめるようにしてから、アリッサの方に素早く向き直る。

 アリッサは、突っ立ったまま特に構えもせず、ミノンの様子を眺めていた。


 ミノンは、再び木刀を振りかぶり、アリッサに突進する。

 アリッサはミノンに正面を向けたまま、全く同じ速度で後退する。


 それから、しばらくの間、ミノンが追い、アリッサが後退し、時々アリッサが急に直角に曲がり、ミノンがその動きに追い付かずにオーバーランする、の繰り返しが続いた。

 

 もはや、武芸者同士の試合と言うより、闘牛に近い。


 ミノンが息を切らしつつ全力で追うも、木刀の間合いに捕らえることが出来ないアリッサ。

 その姿が、不意にミノンの視界から消えた。


 ミノンはわずかな音を聴き取って、アリッサが自分の左側面に回ったと判断し、全身の力を込めて、木刀を鋭く左になぎ払う。


 と、突然、木刀のコントロールが利かなくなった。


 アリッサがミノンの振るった木刀に飛び付き、片手でその刀身をつかんでいたのだ。

 その姿は、投げられた円盤を空中でキャッチした犬のようにも見えた。


 ミノンは驚愕の表情を浮かべ、それでも木刀を握る左手に力を込め、体勢をくずすまいと足を踏ん張った。


 地に足が着くと同時に、アリッサは木刀の刀身を両手でつかみ、宙に円を描くようにそれを軽く一回転させる。ミノンの左手が不自然な方向によじれ、それにつられるように、ミノンの体が床に仰向けに倒れた。


「そこまでっ!」


 ヴォルフがそう叫んだ時、アリッサが逆さまに持った木刀の柄は、大の字に倒れているミノンののど元に、ぴたりと付けられていた。


 試合を見守っていた門下生達の間から、感嘆のどよめきが起こり、やがて稽古場は盛大な拍手に包まれた。


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