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アリッサとミノンは、稽古場の中央部で、五メートル程離れて向き合った。
アリッサの傍らにはリーガが、ミノンの傍らにはヴォルフが立っている。
「ではこれより、アリッサ・スルーとミノン・マントノンとの他流試合を始めます」
ヴォルフは声高らかにそう宣言し、ミノンから少し離れた位置に立った。
リーガも同じようにアリッサの側から離れようとした時、アリッサはその袖をつかんで引き止め、小声で話しかけた。
「あんた、いつからマントノン家の手先になったのよ」
リーガはアリッサの方に向き直り、少し微笑みながら、同じく小声で、
「稽古着を貸してもらってるだけだよ。入門はしてない。アリッサこそ、なぜこの試合を受けたのさ。全国格闘大会に出場したことと言い、いつものアリッサらしくない」
「色々あってね。話すと長いし、今はその時間無いから。でも一つだけ言っておきたいことがあるんだけど」
「何?」
「私が殺されそうになったら、すぐミノンさんの勝ちを宣言して。木刀を持った剣術使いは、ヤバいなんてもんじゃないことくらい、分かってるでしょう」
「それなら大丈夫。ヴォルフ君が、的確にジャッジしてくれるから。あの子は優秀だよ」
「そうやって、何でも人任せにするんじゃないっての。ああ、いっそあんたが戦えば良かったのに」
「マントノン家がご所望してるのはアリッサだ。僕じゃない」
リーガの態度に、アリッサは少し怒った調子で、
「リーガ、対岸の火事見物は楽しい? 楽しいでしょうね。立場が逆だったら、きっと、私も楽しいだろうなあ」
「双眼鏡を持ってはしゃいでるアリッサの姿が容易に想像できるよ。でも、今はくだらないことを言ってないで、さっさと試合して来なさい。ほら、ミノンさんがお待ちかねだ」
「はーいはい。また後でね」
リーガはアリッサから少し離れた所に立ち、アリッサはミノンの方へ向き直って、
「すみません、お待たせしました。どうぞ、始めてください」




