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ミノンとアリッサは、再び稽古場に戻って来た。
「どちらかが戦闘不能になるか、もしくはそれに準ずる状況である、と審判が判断した場合に試合は終了し、勝敗が決するものとする。なお、試合はこの稽古場の内部、つまり、壁、天井を含めた全ての空間を使って行われるので、巻き添えを食わないように対処すること。とりあえず皆、壁際に寄って欲しい」
ミノンの警告を受けて、門下生達はぞろぞろと壁の方へ移動する。そして、通常の試合にしては、広すぎる空間がぽっかりと空けられた。
「審判は二人、こちらからは私の弟で、マントノン家の次期当主、ヴォルフ・マントノンを出し、アリッサさんの方からは、ヴォーン門下のリーガ・ドリットさんにお願いしてある。これは、両陣営から一人ずつ審判を立てて、公平を期す為である。アリッサさん、異存はありませんか?」
「特にありません」
アリッサは、気の無い返事をした。
「では審判の二人、前へ」
その言葉を合図に、壁際にずらりと並んだ門下生の中から、二人が中央に進み出る。
一人はヴォルフ・マントノン。稽古着を着た十歳くらいの男の子で、幼いながらも動作がきびきびしている。鷹のように鋭い目つきをしており、口元は一文字に引き締められ、凛々しい感じのする美少年だった。
が、同じ美形ではあっても、三人の姉とはあまり顔が似ていない。髪の色も違う。姉は皆、光沢のある小麦色だが、この子は少し茶がかった黒だ。
もう一人は、二十代の青年リーガ・ドリット。こちらはアリッサのよく知る人間だった。
茶色いフワフワした髪に、そこそこハンサムな顔立ちをしているものの、普通の人はリーガを見ても、あまり記憶に残らない。
気配が無い。目立たない。印象に残らない。それがリーガの最大の特徴にして武器である。
現に今の今まで、マントノン家の稽古着を着て、マントノン家の門下生に見事に擬態していた。誰もよそ者が紛れこんでいるとは、思わなかったのではないだろうか。
よくテレビで見る、木の葉そっくりの虫かお前は。
アリッサはそんなことを思いながら、リーガを見ていた。




