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「私は武器としてこの木刀を使わせて頂きますが、アリッサさんは、好きな武具、防具を使ってください。地下の倉庫に色々と取り揃えてますので、どうぞこちらへ」
アリッサはミノンに連れられて、地下の倉庫に来た。
ずらりと並ぶ棚に、おそらく稽古で使うものであろう、様々な武具、防具、その他何に使用するのか分からない道具の類が、整然と揃えられている。
アリッサは頭をすっぽり覆うヘルメットを手に取って、こつこつと叩いてみた。軽くて丈夫な素材で出来ている。顔の部分は透明になっていて、どことなく潜水夫を思わせる。随分と開発費用もかかったことだろう。
他に、胴体を保護する甲冑、腕や足を保護するカバーなど、様々な用途の防具を一通り見て回る。
「ミノンさんは、防具を着けないのですか?」
アリッサが聞いた。
「アリッサさんを相手に、動きが鈍るものは着けたくないので」
「私が危険な武器を選んでも?」
「この、今着ている稽古着だけです」
アリッサは、様々な剣が置いてある棚に移動した。
「たとえば、この真剣を選んでも構いませんか?」
「どうぞ。切れ味は保証します」
「流石に、剣を生業にしてる人は違いますね。全く怯まないあたりが」
「はっはっは。それを使いますか?」
「いや、聞いてみただけです。他にも色々ありますね。使い方が分からないようなものが一杯です」
「よければ、一つ一つご説明しましょう」
「いや、いいです。この際、慣れないものは使わないことにします」
「では素手で?」
「はい、一番慣れてますから」
アリッサがそう言うと、ミノンはさも嬉しそうに、
「実を言うと、アリッサさんならそうするだろうと思ってました。木刀の一本や二本に怯む武芸者ではないはずだと」
「でも拳銃があったら使おうかと思ってました」
アリッサが少しおどけて言う。
「はっはっは。残念ですが、それは無しです」
ミノンは高らかに笑った。
「冗談は別として、ミノンさん、よく考えてください。両者覚悟の上とは言え、変則的な他流試合で、万が一ミノンさんが私を殺してしまったら、当然、殺人もしくは過失致死で逮捕されるんじゃないでしょうか?」
「安心してください。私は木刀、そちらは素手。アリッサさんが私を殺しても、無罪放免でしょう。マントノン家がそのように計らいます」
「逆です逆。もし、ミノンさんが私を叩き殺してしまったら」
「大変な名誉です」
「いや、ミノンさんが逮捕されますよ、ってことなんですが」
「牢獄から、アリッサさんのご冥福を毎日祈らせて頂きます」
三女のパティさんも大概だったが、次女のミノンさんも思考回路がおかしい。
アリッサは、試合よりもそっちの方が怖かった。




