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アリッサは、記者団に対して次のようなことを答えた。
「プランチャさんは強敵でした」
「打撃系の人には、『首から上への攻撃禁止』のルールは不利になったと思います。それが逆に、こちらが逃げるのに有利になりました」
「逃げ回りつつ、隙をついてのカウンターを狙っていたのですが、彼女は一流の拳闘家だけあって、簡単には許してくれませんでした」
「元々、ウチの流儀は『戦うこと』より『逃げること』に重きを置いてますし、私は正式には武芸者とは呼べません。道場をやっていると言っても、ほとんど託児所みたいなものです」
「武芸者としての父の名が大げさに広まっていて、娘である私を過大評価する人もいるようですが、結果はごらんの通りです。手も足も出ませんでした」
「もうこれを期に、こういった大会とはあまり関わらないようにするつもりです。今まで通り、山で呑気に暮らすのが性に合っています」
一方、試合に勝ったプランチャは、その後も順調に勝ち進んで優勝してしまった。
その時、もうアリッサは会場におらず、帰途についていたのだが。
優勝後、プランチャはアリッサについて、記者団に対し次のように語った。
「今大会で一番の強敵は、最初に当たったアリッサさんです」
「最初に足を取られた時は、場外ルールに助けられました。もしルールが無ければ、確実に足首を粉砕されていたでしょう」
「攻めても無駄だと分かっていながら、ポイントを稼ぐ為に攻め続けました。攻めている間は、いつ反撃されてノックアウトされてもおかしくない状況でした」
「『首から上への攻撃禁止』ルールが無かったら、どんな技が私にかけられていたかは、想像がつきません。とにかく首から上は攻撃されない、ということに頼って、やっと攻め続けられたようなものです」
「アリッサさんは、あまり動いていないように見えたかもしれませんが、実は非常に巧みに動いています。タイミングを微妙に外されている、そんな感じでした」
「『勇者』ヴォーンの伝説を一身に受け継いだ格闘界のマジカル最終兵器、と称されるアリッサさんと試合が出来たことを、光栄に思っています」
後日、この発言をテレビで見たアリッサは、自分の努力が粉々に打ち砕かれたことを悟り、ちゃぶ台に突っ伏した。
「プランチャさん、あんたって人は……いや、悪気が無いのは分かってるんだけど。マジカルって何?」
アリッサの称号が、本人の意思に反して、また一つ進化した。