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翌朝、父親の出立を見送ると、アリッサは何事も無かったかのように、日課の道場掃除に取りかかった。
道場は古い割にしっかりした作りになっている為、手入れさえ怠らなければ百年は持つ、とアリッサは見積もっていた。
昔、門下生達が道場を頻繁に改築した結果、ちょっとした要塞のようになってしまったのである。壁も柱も頑丈な素材を使い、近くの滝を使って自家発電を行い、倉庫には武器弾薬が備えられている。内戦時代の名残と言えなくもない。
「これだけあれば軍が来ても戦えるわい」
設計に関わった門下生の一人はそう言ってからからと笑ったそうだが、そもそもこんな辺鄙な山奥に軍隊が来るか。実際、一度も攻めてこなかったし。
ちなみにその門下生は道場を去った後、平和な世の中に受け入れられず、最後は酒場で階段から転げ落ちて亡くなった。
一癖も二癖もある連中が、混乱の時代にどこからともなく集まっていた道場。そんな門下生達も今はもういない。道場主まで旅に出てしまう始末。道場と言うより、空き家と言った方が相応しい。
「時代は変わったんだし、もっと人様のお役に立つような道場にしよう」
一週間考えた末に、アリッサは道場経営方針の大幅な変更に踏み切った。