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逃げ足道場 ~私を面倒事に巻き込まないでください~  作者: 真宵 駆
◆◆第二章◆◆ 全国格闘大会へ(逃げる)

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24/104

◆5◆

 それから一週間後、アリッサは、エディリア共和国の首都エディロにある、全国格闘大会の会場に来ていた。道場のあるランナウェイ村から首都までは、車と列車を乗り継いで三日程かかったが、アリッサは旅の疲れを感じてはいなかった。普段、村から一歩も外へ出ないアリッサにとって、久しぶりの旅行ということもあって、少し浮かれている様子さえ見られた。

 

「もし、早目に敗退することになって時間が出来たら、少し首都見物をしよう」


 今ここで、そんなのんきなことを考えているのは、自分だけだろうな、と思うアリッサ。


 選手控室に集う参加者のほとんどは、真剣な表情で、試合を前にしてウォームアップに余念が無い。アリッサのように、何もしない人もいるが、それは少数派だ。

 他の人の邪魔にならない位置に、パイプ椅子を置いてそこに座り、早く試合の時間にならないかな、と思っていると、

「アリッサ・スルーさんですね」

 参加者の一人に声をかけられた。

「はい、なんでしょう」


 見ると、十五、六才くらいの、黒いジャージを羽織った女の子が、期待に満ちた顔をして立っている。ぼさぼさの短い黒髪に、太いが形の良い眉、人なつっこそうな目。そして、その口調には一途な情熱がこもっている。

 まるで、遊びたくてしょうがない仔犬みたいな子だ、とアリッサは思った。


「初めまして。一回戦で当たる、プランチャ・バジャと申します」

「どうも初めまして、プランチャさん。お互い頑張りましょうね」

「光栄です。『勇者』ヴォーンの伝説を一身に受け継いだ格闘界の最終兵器、と称される、アリッサさんとお手合わせできて」


 いつの間にかアリッサの称号が、おかしな方向に劇的な進化を遂げていた。


「ちょっと待って。その長ったらしくて奇っ怪な称号は、どこから来たの」

「みなさんそう言ってます。さっきも、テレビ中継のアナウンサーがそう言って、詳しく解説してましたが」

「あああ」

 アリッサは思わず頭を抱えた。


「私は父から伝説を受け継いだ覚えは、これっぽっちも無いし、格闘界の最終兵器と言うよりは、ただの平和ボケした田舎娘だから」

 それを聞いても、プランチャは落胆する様子もなく、

「マントノン家の三女を撃退したのは、本当のことですよね」

「あー。その、一回勝ったからと言って、実力が上とは限らないし。って言うか、その噂はどこから来てるんだろう」

「マントノン家の長女が、三女から直々に聞き出したそうです。それから、『ヴォーンの娘に、勝手に戦いを挑んではならない』、と門下生に訓戒したらしいですが」

「あ、そうなの。それはありがたい話ね」

「いえ、続きがあって、『次女ミノンが万全を期して、彼女に挑む予定だから』ということです。マントノン家の支部道場に通っている友人から聞いた話なので、間違いありません」

「うわ、迷惑なマントノン家」


「ご迷惑だったかしら?」


 背後から別の声がした。

 アリッサとプランチャが振り返ると、光沢のある小麦色をした長い髪の女が立っていた。その露出度の高い服のデザインと、どこか見覚えのある綺麗な顔立ちを見て、アリッサは非常に嫌な予感がした。


「シェルシェ・マントノン!? マントノン家三姉妹の長女の、本物?」


 プランチャが興奮して口走った言葉で、アリッサは、自分の嫌な予感が当たってしまったことを悟った。

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