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逃げ足道場 ~私を面倒事に巻き込まないでください~  作者: 真宵 駆
◆◆第二章◆◆ 全国格闘大会へ(逃げる)

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23/104

◆4◆

「はいはい、みんな、そんなに笑わないの。レットさんはああ見えて、結構お茶目な所がある熊、じゃなかった、人なんです」

 アリッサは、自分も少し笑いそうになるのをこらえながら、子供達にそう言い聞かせた。

「先生、それ、フォローになってない」

 子供の一人が言うと、また笑いの波が起こり、静まるまでに少し時間がかかった。


「最後に、みんなにお知らせがあります」

 その日の稽古を一通り終えてから、アリッサは子供達に言った。

「先生は、一週間後に全国格闘大会に出るので、その前後はしばらく道場をお休みにします」

「もう知ってるよ。村の人みんな」

「さすが、村のおばちゃん情報網は仕事が早いわね。それで、みんなに約束して欲しいことがあります。」

「何?」

「先生が負けても、がっかりしないこと。大会に参加する人は、みんな強いからね」

「先生は、もっと強いよ」

「はは、ありがと。でもね、全国ともなると、もう想像もつかないような強い人達が、一杯いるのよ」

「でも先生、この前、すごく強い人に勝ったでしょ」

 子供の一人がそう言うと、皆が一斉にざわつき出した。

「マントノン家から送り込まれた、しかくだって」

「マントノン家って強いの?」

「剣術で一番強いところだよ。道場がたくさんあって」

「でも、先生が半殺しにしちゃったって」

「最後は泣いて謝ったって」

「待て待て、君たち。それどこ情報?」

 アリッサはたまりかねて口を挟んだ。

「村の人、みんなそう言ってるよ、違うの?」

「あ、うーん。まあ、その、少し違うから」


 アレが泣いたのは、盗撮写真を消されたから、という情けない理由だったとは、さすがに言えない。


「ともかく、先生は不意をついて勝っただけだから。まともに戦ったら、どうなったか分かりません。一番怖いのは慢心、つまり、自分は奴に勝ったから強い、といい気になることです。慢心は人をダメにします。みんなもそういうことあるでしょう? うまくいったことを、もう一度やってみたら、全然ダメだったこと」

 子供達は、めいめいが「あるある」と答えた。

「それと、勝負に負けたからといって、その人をバカにしたり、悪口を言ったりするのは、何であれよくないことです。そもそも、ウチの道場の基本は『逃げ足』です。真っ向から勝負した時点で負けです。先生が、うまく相手を説得できなかったのも、実はよくないことです」

 ちょっと難しかったのか、子供達は、よく分からない、と言う顔をしている。

「じゃあ、なんで大会に出るの?」

「勝負しに行くんでしょ?」

「う……」


 素直な疑問をぶつけられて、アリッサは困惑した。父のせいで自分にまとわりつき始めた、実体の無い「勇者の娘」と言う大げさな称号を、ぶちこわしに行くのだ、と本音を言えば、ますます子供達は困惑するだろう。


「ええとね、つまり、逃げ足の修練の一つ、かな。強豪を相手に、どれだけ逃げ切れるかを試してみようかと思ったの」

「逃げ回るために勝負するの?」

「そう、でもそう簡単には逃がしてくれないわよ。全力で逃げて逃げて逃げまくるからね」

 自分でも、何を言ってるのか、よく分からなくなってきたアリッサだった。

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